2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K18701
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
塚本 早織 愛知学院大学, 教養部, 講師 (80794073)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 文化的規範 / 心理的本質主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文化学習の心理的プロセスを実証することを目的としている。国際化が進む昨今、異なる文化で生活を始めたり、異なる文化を背景とする人々を自国に受け入れる必要性に迫られたりする可能性が高まっている。多くの人が異文化での適応や、異文化の人々との共存を経験する時代になっている。このような背景から、文化的規範を学習し、他者に伝えたり、他者と共有したりする際の心理的プロセスについて包括的に検討することは、実践的な応用意義があると考えた。個人の文化学習過程とともに、学習された規範が社会で共有される過程を明らかにすることで、異文化適応に必要な他者や環境からの報酬と行動選択の相互作用を指摘する。 本年度はまず、新しい文化を学習する動機に関わる個人差として、環境の変化に対する心理的な耐性を取り上げ、文化学習に影響する心理的要因を検討した。環境の変化に関するシナリオ題材として、移民が自国へ大量に流入するという物語を採用し、参加者に環境の変化を擬似的に体験させた。その際、心理的本質主義と呼ばれる個人差を測定し、自分が所属する集団(本研究の場合は自分の国)の性質がどのくらい変わりやすいものだと感じるかの程度が、他の集団(本研究の場合は移民)を受け入れることへの抵抗感に与える影響を測定した。心理的本質主義の傾向が強く、自国の性質は変わらないと感じる人ほど、移民受入に反対の姿勢を持ちやすいことが明らかになった。一方、心理的本質主義の傾向が弱く、自国の性質が昔も今も変わる可能性があると感じやすい人は、外国人の流入を脅威に感じやすく、競争相手であることを理由に、移民に対して排除の態度を持ちやすいことが明らかになった。以上のことから、心理的本質主義が移民の流入を環境の変化とした場合の心理的な耐性として働くことが示唆され、異文化適応の個人差として意味のある要因であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
異文化適応における個人差のひとつとして、心理的本質主義による集団理解の認知傾向が指摘できることが明らかになった。これまで、心理的本質主義は差別や偏見を引き起こす要因のひとつとして指摘されてきたが、本研究の発見により、環境の変化への耐性という新たな側面を示すことができた。研究実績の概要で示したこの内容は、The Journal of Social Psychologyに掲載された。 平成29年度は、申請当初に研究を実施することを想定していた研究拠点から、新しい研究拠点に異動したことで、環境の整備をはじめとした研究の実施に出遅れが生じた。加えて、産前産後休暇を取得したことにより平成29年度後半は研究実施が事実上困難であったため、「やや遅れている」という評価に至った。 実験室の環境を整えるため、実験用コンピューターを購入し、刺激呈示用プログラム(E-prime)を導入した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、異文化体験や文化的価値観の学習に影響する要因として、社会的フィードバックに焦点を当てる。どのような社会的なフィードバックが報酬や罰となって、特定の行動を促進したり減少させたりするのかは、受け取る側の人々が元々持っている価値観や志向に左右されると考えられる。例えば、協調性を重んじる場合、自分が所属する集団の他者からのフィードバックに敏感に反応し、個人の自主性や独立性を重視する場合は、自身の感情経験の強さが行動選択に影響を与えやすいことが予測できる。このように、フィードバックの種類を複数想定し、どのようなフィードバックが効果を持ちやすいのかについて、異なる文化の人々を比較することで検討する。異文化に接触したり、異文化を受け入れることが求められる状況においても、個人の既存の文化的価値観が新たな文化の学習に影響を与えることが指摘できるだろう。 また、実験実施のため、リサーチ・アシスタントの募集およびトレーニングを行う。また、国内外の学会に参加することにより、研究の進捗や成果を報告する。
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Causes of Carryover |
出産に伴う産前産後休暇取得により研究が中断したため、次年度使用額が生じた。 H30年度前期には、実験の準備に向けたオンライン調査や実験備品の購入のために助成金を利用する。後期には、実験を実施するために、リサーチアシスタントの雇用や謝礼を目的とした助成金の使用を予定している。
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