2018 Fiscal Year Research-status Report
ヒトの報酬スケジュールのための新たな実験プラットフォームの開発と展開
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17K18713
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
坂上 貴之 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (90146720)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丹野 貴行 明星大学, 心理学部, 准教授 (10737315)
藤巻 峻 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (80811421)
井垣 竹晴 流通経済大学, 流通情報学部, 教授 (30434426)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 強化スケジュール / Web実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「ヒトの報酬スケジュールのための新たな実験プラットフォームの開発と展開」という課題名の下、スケジュール場面でのヒトの反応遂行について、動物でのそれにできるだけ近い結果を得るための実験プラットフォームの開発を目指した。とくに着目したのが実験セッションの時間的長さであった。動物を対象とするスケジュール実験では、数か月間に亘る実験セッションを経験させることで、経験による行動変容としての「学習」を扱う。しかしヒトを対象とするスケジュール実験では、実験室内での1時間弱の経験による行動変容しか扱うことができず、これがヒトの学習現象を扱う上での大きな問題点となっていた。そこで本研究では、実験場面をWeb上で実現し、タブレット端末を通じてそこに自由にアクセスできるという実験プラットフォームの構築を考え、実装した。また、長期間に亘るスケジュール実験への参加には、比較的飽きのこない柔軟性に富んだ実験状況も必要である。本研究では、インタラクティブなインターフェイスを備えたプログラム言語Processingにより報酬スケジュールをゲーム化したものを数個作成し、それらの比較検討を経たもののうちの一つがWeb上で実現された。 扱われた行動現象は、変動比率スケジュールと変動時隔スケジュールの反応率の差、固定時隔スケジュールでの計時、そして反応復活であり、いずれも動物実験において頑健な結果が得られてきた現象である。Web上での実験プラットフォームの構築を終えた後、分担者の所属の各大学で多数の実験を遂行し、ヒトが長時間に亘って報酬スケジュールを経験するという貴重な行動データが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度では、計画―実行―評価―改善(PDCA)サイクルを回す形で、報酬スケジュールの試作品の開発と予備実験を繰り返した。その結果、ヒトと動物とで、ある程度類似した行動データを示しつつ、ゲームの面白さでも評価の高かった1つのゲームを選定することができた。平成30年度では、まず開発したゲームをWebサーバーへの移行を行った。ここでは、移行時に必要なサーバーの契約、移行後に出現した各種のいわゆるバグの取り除き作業、代表・分担研究者らによる予備実験といったものが行われた。こうして移行が完了した後、所属大学において倫理申請を行った上で実験参加者が募集され、本実験へと取り掛かった。本実験は大きく3つに分けられていた。2つの実験では、変動比率スケジュール、変動時隔スケジュール、固定時隔スケジュールの3種類の報酬スケジュールが実施され、実験条件の微細な調整と、実験期間の長さで2つの実験は若干異なっていた。残りの1つの実験では、反応復活現象が扱われた。こうした実験から得られたデータの一部は、2018年12月の日本基礎心理学会年次大会で発表された。その後もデータの取得は続けられ、その結果に基づく調整によりさらにレベルの高い実験プラットフォームの構築が試みられている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度までの研究で、報酬スケジュール下でのヒトの長時間に亘る反応遂行という貴重なデータが得られた。ただし、そのデータを分析したところ、一部で動物実験での結果が再現されない箇所が見られた。本研究の目的は、スケジュール場面でのヒトの反応遂行について動物でのそれにできるだけ近い結果を得るための実験プラットフォームの開発であるので、未だこれが満たされていないということになる。今後実験プラットフォームの大幅な変更を行う予定はないものの、これを「プラットフォーム」と呼べるものまでに仕上げるには、さらなるデータに基づく追加の修正と、そして得られたデータのより詳細な分析が必要となる。とりわけ、これまでは単位時間当たりの反応の頻度である反応率に注目してきたが、微視的な反応間時間の分析などを通して、反応パターンという点でヒトと動物とでどれだけ類似したものを作り出せたのかを確認する必要がある。延長された平成31年度の研究ではこれらに取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の課題名は、「ヒトの報酬スケジュールのための新たな実験プラットフォームの開発と展開」であり、その目的は、スケジュール場面でのヒトの反応遂行について、動物でのそれにできるだけ近い結果を得るための実験プラットフォームを開発することである。平成30年度までの研究でこれについてある程度の目途がついたものの、プラットフォームのWebサーバーへの移行が当初の予定より遅れ、これに応じて実験参加者の募集が遅れ、結果として平成30年度中には検討のための十分な量のデータが取得できたとは言えない状況にある。また、データ取得がそうした途中段階にあるため、反応パターンのモデル化といったデータのより詳細な分析も行えていない状況にある。平成31年度研究においてこれらの問題を解決する予定である。
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