2020 Fiscal Year Research-status Report
Investigation of the mathematical structure of bidomain models
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17K18732
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
俣野 博 明治大学, 研究・知財戦略機構(中野), 特任教授 (40126165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奈良 光紀 岩手大学, 理工学部, 准教授 (90512161)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | バイドメインモデル / 非線形問題 / 進行波 / 安定性 / 分岐理論 / FitzHugh-Nagumoモデル / パルス波 / 擬微分方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイドメインモデルは,心臓電気生理学で重要な数理モデルであるが,この方程式の理論的研究,とくに解の安定性などに関する定性的研究は,ほとんど行われていなかった.本研究は,代表者と森洋一朗氏が以前から進めてきた研究を引き継ぎ,発展させるものである.前回の研究では平面R^2上でバイドメインAllen-Cahn方程式を考え,平面進行波の安定性に関する世界で初めての成果を得た(CPAM, 2016).この研究は,平面進行波の線形安定性と,拡散の異方性から定まるフランク図形の密接な関係を明らかにした点で画期的であった.平成29年度から始めた本研究では,この結果をさらに深めて非線形安定性を考察するとともに,バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルについても研究した.本年度の実施状況は,以下の通りである.
(1) 【非線形安定性解析】 2019年度に続き,帯状領域上でバイドメインAllen-Cahn方程式の進行波の非線形安定性を研究した.帯状領域の幅や方向と進行波の安定性との関係を明らかにするともに,進行波のHopf分岐に関する理論を確立した.この研究は前年度にかなり進展していたが,コロナ禍のため完成が遅れた.しかし最終的には,年度末に完成度の高い論文を書き上げることができた. (2) 【バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルの研究】2019年度に続き,本来の神経生理学モデルにより近いバイドメインFitzHugh-Nagumoモデルを研究した.Allen-Cahn方程式に対して波面が安定な方向の帯状領域であれば,FitzHugh-Nagumoのパルス波も(あるパラメータ領域においては)安定であるという予想について,昨年度に予備的な結果を得ていたが.コロナ禍で研究が一時的に停滞した.今年度は,数多くの数値シミュレーションを行い,予想の正しさを示す興味深い実験的結果が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度,研究がかなり進展して論文投稿も近いと思っていたが,解決すべき技術的問題が一部残っていることに気づいた.これは,通常の拡散方程式にはない,バイドメイン特有の厄介な性質によるものである.ただ,それらは特段に大きな問題というわけではなく,少し時間をかければ確実に解決できる見通しはあったが,コロナ禍に襲われて,共同討議の機会が大幅に減ってしまい,論文を完成させるのに予想外の時間がかかった. ようやく,2020年度いっぱいかけて,論文2篇を完成させることができた(投稿中).上にも述べたように,そのうちの1つは,無限帯状領域におけるバイドメインAllen-Cahn方程式の進行波の非線形安定性と,進行波が安定性を失うときの分岐現象に関するものである.この方程式は,古典的なAllen-Cahn方程式のような拡散方程式ではなく,比較定理が成り立たない擬微分方程式であるため,理論的な取り扱いが極めて難しい.数多くの技術的困難を克服する必要があった.そうした事情と,コロナ禍により,当初の予定より時間はかかったが,完成度の高い論文を書き上げることができた(論文投稿済み).
また,本来の神経生理学モデルにより近い,バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルに関する研究も,同時並行で行ったが,コロナ禍により共同研究が従来通り進められなくなったので,とりあえず,今年度は,数値シミュレーションを主体とする研究に注力し,こちらも,ようやく完成にこぎつけることができた(論文投稿済み).
本研究は,心臓生理学の分野で重要なバイドメインモデルに対して世界に先駆けて行った理論的研究であり.研究の進み具合は,当初の予定より時間がかかっているが,十分満足できる成果が得られつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルのパルス波の安定性に関する理論的な研究を再開し,論文の完成をめざす.古典的な(拡散方程式の)FitzHugh-Nagumoモデルの場合,パルス波の安定性は,1980年代に柳田氏やJonesによって部分的な結果が示され,2000年代に入って,Scheel氏らによってより一般的なケースに対する結果が得られている,これらの結果は,古典的(拡散方程式の)Allen-Cahn方程式の進行波に対する安定性の結果と特異摂動法を組み合わせて得られている.バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルの場合も,バイドメインAllen-Cahn方程式に対する安定性解析が申請者と森洋一朗氏による2016年の研究と,今回完成させた研究によって得られているので,それを利用して安定性解析が行える見通しが立っている.この研究の完成を急ぐ.
また,時間的余裕があれば,より複雑なバイドメインHodgkin-Huxleyモデルについても予備的な研究を行いたい.バイドメインHodgkin-Huxleyモデルは,バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルよりも,実際の心臓の電気生理をより忠実に表していると考えられている.方程式は複雑であるが,パルス波の挙動は,バイドメインFitzHugh-Nagumoモデルのパルス波に近いと考えている.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の蔓延により,共同研究を当初の予定通り進めるのが困難になり,期間を延長した.これに伴い,今年度に開催する予定であった研究集会を次年度に延期した.
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