2017 Fiscal Year Research-status Report
ゆらぎの定理を基軸とした非平衡熱力学形式の構築を目的とする探索的研究
Project/Area Number |
17K18737
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
盛田 健彦 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00192782)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
Keywords | ゆらぎの定理 / 非平衡定常状態 / 熱力学形式 / エルゴード理論 / 大偏差原理 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はカオス力学系の条件を緩めた場合に、「ゆらぎの定理」の成立条件を絞り込むことを念頭に置いていた。Cohen とGallavotti による「ゆらぎの定理」の主張は確率論における大偏差原理を彷彿させるものとなっており、その証明には大偏差原理が用いられている。本研究と並行して基盤研究(B)においても力学系の様々な極限定理に関する研究も推進中で、双方の研究は他方の駆動力ともなっており、本研究で得られた知見は以下の二つの研究結果に活かされている。 一つ目は、参照測度に非特異な変換があり、参照測度に関する Perron-Frobenius 作用素が擬コンパクトとなるような Banach 代数で、本質的有界関数の空間に連続的に埋め込まれ、かつ可積分関数の空間で稠密となっているようなものが存在するという抽象的な仮定を満たす力学系の場合に局所極限定理を導く手法についてであり、2017年 11月に開催された研究集会「エルゴード理論とその周辺」での講演 “Expedient Banach algebras for piecewise expanding fibred systems” において報告した。もう一つは、転送作用の解析的摂動論を素朴な方法で見直すことによって、固定された1点のある自然な分割が定義する近傍への訪問回数の分布が、その近傍を1点に潰していくにしたがってどのような分布に近づいていくかをPoisson 法則を一般化した形式で述べたことである。これについては、2018年3月に岡山大学で開催された研究集会「岡山・広島 解析・確率論セミナー2018」の招待講演 “Some limit theorems for piecewise expanding dynamical systems via perturbed transfer operators” の中で紹介した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は以下の3つの具体的目標を掲げている。 (1) 「ゆらぎの定理」が確認されていないさまざまな力学形に対して、既存の「ゆらぎの定理」がそのまま成立するのか、修正することで意味のある定理となるのかを吟味し、「ゆらぎの定理」の成立条件を絞り込む。 (2) 揺動散逸定理(Green-Kubo 公式)やOnsager の相反定理といった基本的な結果を「ゆらぎの定理」から導出することが確立された例を精査して、数学的にどのような条件がこれを可能にしているのかを特定する。 (3) (1)、(2) の研究を糸口にして、非平衡熱力学の本質的部分を抽出し公理化して数学的形式論の構築を目指す。 初年度は (1) に重点を置いていた。研究実績の概要の項目でも述べたように「ゆらぎの定理」の主張は確率論における大偏差原理を彷彿させるものとなっている。力学系の大偏差原理については近年飛躍的に技術革新が進んでおり、確率論、統計力学、力学系理論等の関連する文献を調べ「ゆらぎの定理」の背景にある様々な結果について相互関係を明確にしておく必要があるため、大偏差原理についての考察に時間を当初計画以上にかけてしまった。極限定理に関する知見は深まり副産物として同時進行で実施している力学系の Poisson 法則を含む研究についての進展はあったものの、本研究自体の研究連絡や情報の収集については若干遅れぎみである。したがって、計画全体から見ると大きな遅れではないにしても初年度計画としては当初計画通りの進捗状況であるとはいいにくい面がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は以下の3つの具体的目標を掲げている。 (1) 「ゆらぎの定理」が確認されていないさまざまな力学系に対して、既存の「ゆらぎの定理」がそのまま成立するのか、修正することで意味のある定理となるのかを吟味し、「ゆらぎの定理」の成立条件を絞り込む。 (2) 揺動散逸定理(Green-Kubo 公式)や Onsager の相反定理といった基本的な結果を「ゆらぎの定理」から導出することが確立された例を精査して、数学的にどのような条件がこれを可能にしているのかを特定する。 (3) (1)、(2) の研究を糸口にして、非平衡熱力学の本質的部分を抽出し公理化して数学的形式論の構築を目指す。 初年度は (1) に重点を置いていたが、大偏差原理に多くの時間を割いたため、そのほかに必要な情報収集と研究連絡が若干遅れ気味となっている。当初計画では平成30年度は (2) に重点を移しつつ (1)、(2) に関する工程を並行して推進する予定であったが、重点を移す時期を少し遅くして対応することになる。必要があれば取り扱う力学系のクラスを絞り込むことによって、いくつかの小さな工程を省略することも検討する。また、本研究は探索的研究であり、最終目標の (3) の達成が難しいということについては当初より想定されている。研究全過程を通して (1) と (2) に関する工程を着実に進めることにを最優先課題とし、本研究課題終了後も継続的に当該研究が可能となるよう準備を整える。
|
Causes of Carryover |
力学系理論等の関連する文献を調べ「ゆらぎの定理」の背景にある様々な結果について相互関係を明確にしておく必要があるが、上述のように当初の計画に比して大偏差原理の研究に多くの時間を割いたため、情報の収集、研究連絡のための相手方との日程調整、図書購入が遅れた。これらは計画全体としては必要なことであり、該当する旅費と物品費の使用時期を次年度以降に変更して調整を行う。
|