2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K18742
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
井口 達雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (20294879)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | 水の波 / 内部波 / 孤立波 / 極限波 / Hamilton構造 / 変分構造 / 磯部‐柿沼モデル / 柿沼モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の対象である水の波の基礎方程式系は変分構造をもつことが知られており,水面の振幅および速度ポテンシャルを用いてLagrangianを書き下すことができる.その速度ポテンシャルを鉛直方向の空間変数に関する多項式で近似することにより得られる近似Lagrangianに対するEuler-Lagrange方程式(磯部‐柿沼モデル)を数学的に解析することが本研究の主要な目的である. 2019年度の1つ目の成果は,前年度までに行った表面波に対する磯部‐柿沼モデルの数学解析を基盤として,内部波に対する柿沼モデルの数学解析を推し進め,3つの保存則およびそのHamiliton構造を見出したことである.特に,正準変数と柿沼モデルの変数との間の関係を明確化した.内部波に対する基礎方程式系の初期値問題は非適切であることが知られており,そのことも一因して,表面波とは異なり大振幅の強非線形波がしばしば観測されている.柿沼モデルは強非線形浅水波近似モデルになることが期待されているにもかかわらず,その初期値問題は自然な条件下で適切になる.このように非常に望ましい性質を有する柿沼モデルの数学的な構造は,今後の更なる研究に役立つことが期待される.これらの成果は1編の学術論文としてまとめており,学術雑誌に投稿予定である. 2019年度の2つ目の研究成果は,磯部‐柿沼モデルに対する孤立波解の存在・非存在を部分的に解決したことである.前年度までの研究により,小振幅孤立波解の1パラメータ族の存在については証明されていた.今年度は大振幅孤立波解について数値計算を援用し,振幅の限界値および極限波の存在を数値的に確かめた.既存の近似モデルでは,このような極限波を記述できなかった.このような点からも磯部‐柿沼モデルの重要性が数学的に保証された.これらの成果は1編の学術論文としてまとめられており,学術雑誌への掲載が決定している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の当初の研究計画では,磯部‐柿沼モデルに対する大振幅孤立波解の存在・非存在を解明していくことと,内部波に対する柿沼モデルの解析を推し進めることであった.研究実績の概要で記したように,前者の研究については,数値計算を援用して最大振幅および極限波の存在を数値的に確かめた.さらに,極限波の頂点は尖り,その内角がおよそ152.6度になることを導いた.よく知られている浅水波モデルや長波長モデルでは,このような極限波を記述することはできないので,磯部‐柿沼モデルは水の波の基礎方程式系が有する強非線形性をよく近似しているモデルであることが保証された.数学的な存在定理はまだ示されていないが,これは予想外の嬉しい結果であった.後者の研究についても,期待通りに,保存則やHamilton構造が解明された.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,内部波に対する柿沼モデルの研究をさらに推し進める.表面波に対する磯部‐柿沼モデルのこれまでの研究により,柿沼モデルも強非線形高次浅水波モデルになっていることが期待されるので,その確認を行う.しかしながら,技術的には複雑な計算を遂行しなければならないと予想される. 次いで,余力があれば,磯部‐柿沼モデルに対する大振幅孤立波解の構造を大域的分岐理論を用いて解析したい.特に,極限波の存在を理論的に保証したい.
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Causes of Carryover |
2019年度の当初研究計画では,主として国内および国際研究集会への積極的参加および海外研究者の招聘を通して研究討論を行い,研究成果を取り纏める予定であった.主要な研究経費としてそのための旅費を計上していたが,海外研究者の滞在期間の短縮や,来日の中止が生じた.その結果,研究課題完遂のためには,事業期間を延長し学会参加および研究討論を行う必要性があると判断したため,補助事業期間を延長するに至った. 2020年度の研究計画は,新型コロナウィルス感染症による影響が長引かない限り,昨年度に引き続いて,主として国内および国際研究集会に積極的に参加し研究討論を行う.10月にはトロント大学(カナダ)のFields Instituteで開催される国際研究集会に参加することが決まっている.また,Didier Bresch氏(フランス)を招聘し,講演会の開催および研究討論をする予定である.Bresch氏には既に訪日の了承を得ている.さらに,定期的に慶應義塾大学理工学部において非線形解析セミナーを開催し,国内外の研究者を招聘する予定である.一方,関連書籍も購入予定である.
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Research Products
(11 results)