2017 Fiscal Year Research-status Report
Study of magnetic dynamics on surfaces and interfaces by high frequency and atomic layer sensitive ESR
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17K18745
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野尻 浩之 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (80189399)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 表面 / 界面 / ESR / 強磁場 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、物質変化の起点としての表面・界面の働きの理解から新しい研究領域を切り拓くために、高周波ESRと元素選択的な軟X線磁気円二色性分光(SXMCD)を組み合わせて、磁性体表面の原子層レベルの磁気共鳴を観測可能な磁化検出型の電子スピン共鳴手法-SXMCD-ESRを発展させることである。H29年度はまずESR測定系の開発を行ない、技術面で確実に実績をあげることが出来た。具体的には、10 Tの磁場に対応する周波数120-300GHz帯の高周波ESR測定系をオフラインで設計組立および試験を実施し、性能を確認出来た。発振器として、高パワーのGunn発振器およびBWOの2つを利用し、後者の周波数掃引によって、ファブリペロー共振器のミラーを固定した状態で共振のチューニングが出来る事を確認した。ミラーを動かさないでチューニングが出来る事は、超高真空中での実験が容易になる。年度後半では、冷凍機を用いて、試料を効率良く冷却する方法を検討した。冷凍機への漏れ磁場の影響を考慮して、設置出来る場所を決定するとともに、試料部分への熱アンカーを様々な素材と形状で試みて、輻射シールド無しで50 K以下の低温が得られるのを確認した。輻射シールドを入れることでさらに低温を得られることは、熱計算等から確認したが、導波管等との関係で複雑な立体構造になるために、作製は、ESRの回路系が確定した後に行う予定である。これにより、低温での稼働が技術的に確立出来た。これらと平行して、XMCD測定の予備実験ならびに、これまで得られた試験測定の結果等を、会議で3件発表した。また、XFEL等のパルス光源を用いて、入射エネルギーの揺らぎを補正して正確にXMCD信号を得る手法を検討し、ビームスプリットによる補正が有力な方法であることを確認した。これは時間分解測定を可能にする手法として重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度はまずESR測定系の開発を行うことが計画されていたが、これは順調に進展している。その第1段階として、10 Tの磁場に対応する周波数120-300 GHz帯の高周波ESR測定系をオフラインで開発したが、本実験に必用なスペックを満たせることが確認出来たので、ESR装置系の開発には目処が付いたと評価出来る。本課題で新たに導入する冷凍機については、評価と試験を行った結果、熱シールド無しで50K以下に下げられることがわかり、シールド導入により目標とする10 Kの達成の目処がついた。開発の第1段階では、10 Tの磁場に対応する周波数120-300 GHz帯の高周波ESR測定系をオフラインで設計組立および試験を実施した。この装置は、発振器、検出器、導波管、ファブリペロー共振器、試料走査機構、冷凍機からなっている。まず、室温において、共振器と導波管の構成について、幾つかのパターンを作成して、性能を評価し、バルクのESR信号を十分な感度で測定出来ることを確認した。発振器としては、高パワーのGunn発振器およびBWOの2つを利用し、後者の周波数掃引によるチューニングを確認した。BWOの発振に漏れ磁場の影響が認められたので、磁気シールド対策を検討した。年度後半では、冷凍機を用いて、試料を効率良く冷却する方法を検討し、バンドル線を用いて熱結合させることで、試料部分が輻射シールド無しで50 K以下の低温が得られるのを確認した。最低温度は、熱輻射で決まっており、熱シールドを入れることでさらに低温を得られる。しかし、複雑な立体構造になるために、作製は、ESRの回路系が確定した後に行う予定である。 またこの他に、予備実験ならびに時分割測定の手法の検討でも十分な進展があった。以上のことから研究の実施状況としては、予定通り順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は放射光を利用した検証実験とXFELを利用した時間分解実験を行う。SPring8のBL25SUを用いた検証実験では、8 Tの大口径超伝導磁石があるので、それを利用する。検証は、(1)共振器系へのX線の入射試験、(2)信号検出系の試験、(3)強磁場実験の順に行う。放射光では、X線エネルギーをXMCDのピークに固定して、磁場掃引で共鳴吸収を測定する磁場掃引モードと、磁場を固定して共鳴状態のスペクトルを取るエネルギー掃引モードを相補的に利用して測定する。電磁波ESRの信号については、光源の出力を交流変調してロックインアンプで高感度に検出する。一方、XMCDについては、通常はビームの変調は左右偏光の周期的な切換のみで、基本的に直流測定であるため、ベースラインの時間ドリフト等により検出感度が制限される。この限界を打ち破るために、チョッパの導入やビームバンチ構造を利用したXMCD信号の変調検出に挑戦する。これが実現すれば、検出感度を2桁程度向上できる。BL25SUではビームのフォーカスが可能であり、これを利用してSXMCD-ESRに空間分解性をもたせ、表面における磁気転移の局所的生成と空間的伝播を捉えられるようにする。高強度のXFEL光源では、ワイドバンド化が進みつつある。これを利用すれば、時間分解測定やポンププローブ型のSXMCD-ESRを実現出来る。電磁波ESRについては、高速の超伝導検出器やボックスカー等の手法を用いて高速測定に対応する。XFELを用いた波長分散型X線分光については、SALCにおいて発光分光を、SWISS-XFELにおいて共同研究プロジェクトを既に立ち上げており、これを利用して時間分解SXMCD-ESR検証実験を行う。
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