2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K18747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山下 穣 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10464207)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 超低温 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は市販の希釈冷凍機で到達可能な温度(~50mK)より低温の超低温領域(~1mK)まで強相関電子系研究を拡張するための技術開発を目的としている。今年度は以下のような進展があった。 (1)ポメランチューク冷却セルの設計と組み立て:超低温実験の迅速化と簡易化を可能にするための小型ポメランチュークセルの設計と組み立てを行った。固液共存相にあるヘリウム3を加圧するために必要な可動ベローズの設計と入手に予想以上の時間がかかってしまい、進展が計画よりも遅れている。しかし、組み立てと低温でのリークテストなどを完了させることができた。 (2)CeCoIn5の超低温NMR測定:我々の研究室で昨年度に行った超低温NMR測定では試料を液体ヘリウム3に漬けて冷却していたが、低温で大きくなる固体と液体の間のカピッツァ熱抵抗のために試料が十分冷却されていなかった。そこで、試料に銀線をインジウム半田で接着し、銀線を通じて冷却されるように改良した。その結果、試料と冷凍機の間の熱接触が大きく改善され、明瞭なNMR信号を観測できるようになった。その結果、NMR信号の温度変化から試料が温度計とともに冷却されていることが確認できた。これは超低温高磁場環境において核スピンのゼーマン分裂の大きさと熱揺らぎの大きさが同程度になることを利用した温度測定であるが、NMRのT2緩和率の温度依存性にも同様の変化が現れることがわかった。このようにNMR信号から試料温度を確認できたことで、縦磁気緩和率の温度依存性を精度良く観測することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ポメランチューク冷却を実現するためには固液共存相にあるヘリウム3を希釈冷凍機で冷却した後に、低温で加圧する必要がある。極低温条件下での加圧のためには、絶対零度まで固化しない液体ヘリウム4を圧力媒体として可動ベローズによって加圧する。これまでに冷却と加圧に最適なヘリウム3空間と可動ベローズの設計と必要なリークテストを終えた。可動ベローズの仕様条件が厳しく、特注で生産する必要があったためにその入手に予想以上の時間を要してしまった。その影響で、動作テストまでには至らなかったが、現在は組み立ての最終段階にあり、次年度早々にポメランチューク冷却セルの動作テストを行うことを予定している。 平行して、CeCoIn5の超低温NMR測定を行い、NMR信号強度の温度変化から試料温度の見積もりができることがわかった。試料温度が確認できてことで、縦磁気緩和率T1の温度依存性を精度良く決定することができた。その結果、先行研究とは異なる温度依存性を示していることがわかった。 これらの研究をさらに展開するために、超低温下の磁場中で試料を回転させることのできるピエゾローテータを導入した。試料の軸と磁場の角度関係を変えながら量子振動、NMR測定を行うことが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
完成したポメランチュークセルの動作テストを行い、最低温度、冷却能力、超低温を連続的に保持できる時間の確認を行う。その後、キャパシタンスカンチレバーを用いた超低温領域における量子振動測定を行う。量子振動測定では、振幅の温度変化から試料の温度が直接評価可能であり、超低温領域まで試料の温度を確認しながらの実験が可能である。これを量子臨界点を持つと考えられている強相関電子系物質(例えば、CeCoIn5 やYbRh2Si2)に適用して、超低温度までの量子振動測定から量子臨界点近傍に現れると期待されている有効質量の変化や未知の秩序相の探索を行う。 さらに、新たに導入したピエゾローテータステージを用いて試料を磁場中で回転させながら量子振動・NMR測定を行う。特に、CeCoIn5においては面内磁場において超伝導相内に超伝導と磁性が共存した相が現れることが知られており、超低温度領域での共存相の相境界と、超伝導相外における磁気秩序相の探索を行う。
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Causes of Carryover |
ポメランチューク冷却に必要な可動ベローズの仕様が特殊な受注生産品となってしまったために、その入手に時間を要し、計画の実行が遅れた。その結果、他の設備備品や消耗品の発注計画が送れて次年度使用額が発生した。 次年度は初年度の分も含めて計画通りに経費を利用して研究を進める予定である。
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