2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K18750
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Research Institution | NTT Basic Research Laboratories |
Principal Investigator |
橋坂 昌幸 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (80550649)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | スピンエレクトロニクス / 反強磁性体 / 磁気共鳴 / テラヘルツ |
Outline of Annual Research Achievements |
物質のスピン物性を介して電気伝導現象を制御する「スピントロニクス」が活発に研究されている。従来のスピントロニクスは強磁性体を中心に研究されてきたが、最近、反強磁性体のスピンダイナミクスが注目されている。反強磁性体はテラヘルツ帯に共鳴周波数を持つことから、超高速情報処理技術への応用が期待できる。本課題「金属反強磁性体のテラヘルツ磁気共鳴評価手法」では、半導体光伝導スイッチを用いたオンチップのテラヘルツ磁場照射方法を、磁気共鳴の電気的検出手法と組み合わせる新しいアイデアによって、反強磁性共鳴スペクトルの観測を目指すものである。この手法は、従来のTHz電磁波の吸収測定が適用できない金属反強磁性体にも適用可能であり、スピントロニクス研究の新たな展開を拓く基礎技術となる可能性がある。 平成29年度は、本課題全体の基礎となるオンチップでのテラヘルツ磁場発生システムの準備を行った。半導体レーザーを利用した5GHz~2THzの広帯域ビーティングレーザー発生装置の立ち上げ、および半導体基板上の光スイッチを利用したオンチップ信号発生素子を作製した。これらを組み合わせることで、高強度の高周波磁場をチップ上の素子に照射できるようになった。また、信号発生源を2つ用意することで、チップ上でのTHz信号の伝送特性から、磁気共鳴を検出する新しい手法を着想した。この手法を実現するための光学系の構築に取り組み、システムの立ち上げがほぼ終了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は人事異動に伴う研究環境の変化に対応するため、計画に若干の遅れが生じた。当初の計画では、立ち上げの完了した広帯域磁場照射システムを用いて、平成29年度内に既知のGHz帯の強磁性共鳴の検出を行い、システムのチェックを行う予定であった。しかしながら、新しい環境における磁性体試料の作製に手間取ったため、現状ではGHz強磁性共鳴の観測には至っていない。最近、試料作製手法についてはノウハウが確立しつつあり、磁性試料についても作製の目途が立ったことから、速やかに試料作製を開始して進捗の後れを取り戻したいと考えている。 一方でTHz発生装置に限れば、当初の計画であった単一のTHz信号発生源を用いる手法を立ち上げたのみならず、さらにその発展形である2つの信号発生源を組み合わせた新しい実験系を実現しつつある。この点においては、当初の計画以上の進展があった。2つの信号源を利用することでTHz信号のオンチップでの伝送特性を評価することが可能になり、この伝送特性の変化から反強磁性材料の磁気共鳴を検出する手法にも着想した。これは当初からの計画である反強磁性体の電気抵抗変化を直流信号測定で読み出す手法と対をなす手法である。2つの手法による実験結果を比較することで、より信頼性の高い実験を展開可能であると期待している。新しい着想を活かすことで、平成29年度の進捗の遅れを取り戻し、当初の計画以上の進展を達成したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、昨年度に確立した広帯域信号発生装置を用いて、まず既知のGHz帯における強磁性共鳴(パーマロイなど)の検出を行う。この実験では、当初の単一の信号発生源を用いて直流信号として磁気共鳴を読み出す手法に加え、高周波信号のオンチップ伝送特性から磁気共鳴を読み出す手法も用いる。これら2つの実験結果を従来手法で観測されてきた磁気共鳴スペクトルと比較し、その結果を実験系の改良へとフィードバックして、2つの新しい測定法の信頼性を十分に確立する。 続いて、THz帯における磁気共鳴の観測を目指す。具体的な対象として、1 THz付近に共鳴周波数を持つ反強磁性絶縁体NiOや、100 GHz以上に共鳴周波数を持つと期待されるフェリ磁性体の磁気共鳴の観測に取り組む。NiOは絶縁体であるためTHz電磁波の透過吸収測定手法が適用可能であり、既にこの従来手法によって磁気共鳴が観察されている。従って本課題の手法でNiOの磁気共鳴スペクトルを得ることができれば、その測定データを従来手法による磁気共鳴スペクトルと比較することが可能であり、本測定系の動作検証に大いに有効である。一方、フェリ磁性体は材料のバリエーションが豊富であり、金属や絶縁体などさまざまな電気伝導特性を有する物質が選択可能である。強磁性体同様に1方向性の磁化を有することから、反強磁性的な磁気共鳴だけでなく強磁性的な磁気共鳴周波数も持つと期待でき、これら2つの情報を組み合わせて解析することで、本研究のデータ解析にとって重要な基礎的知見を得られると期待している。これらのプロセスを通してノウハウを十分に蓄積し、様々な磁性材料に対して本手法を適用していき、最終的に金属反強磁性体のTHz磁気共鳴の観測を達成することを目指す。
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