2017 Fiscal Year Research-status Report
Efficient creation of p-wave molecules in a three-dimensional optical lattice
Project/Area Number |
17K18752
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
向山 敬 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70376490)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
Keywords | レーザー冷却 / 極低温原子気体 / 超流動 / フェッシュバッハ共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は極低温フェルミ原子気体を用いてp波超流動を実現することを目指した研究であり,そのためにはp波フェッシュバッハ共鳴近傍での原子のロスを抑えることが必須である。そのためにはp波フェッシュバッハ共鳴近傍での原子ロスのメカニズムについての詳細な理解が必要である。さらにはロスを抑える方法として原子集団を低次元にトラップするというアイデアがあるが,その有効性は実験的に示されておらず,有効性を検証することも重要な目的の一つである。本年度は原子の2体衝突によるロス(双極子ロス)と原子のトラップの次元の間の関係を詳細に調べた。我々はまず3次元的にトラップされた原子集団を用い, p波散乱振幅表現の中に現れる散乱体積というパラメータに虚部を導入することで,双極子ロスの磁場依存性や温度依存性の実験結果がよく説明できることを初めて明らかにした。さらに1次元光格子を導入することで原子集団を2次元的にトラップし,その原子集団における双極子ロスを詳細に調べた。その結果,2次元系においても3次元系と同様に散乱体積に虚部を導入することで双極子ロスが説明できること,さらに3次元系に比べて2次元系の方がロスが抑制されていることが明らかになった。冷却フェルミ原子系においてp波超流動の実現が難しい理由が原子集団のロスであり,そのロスを抑制するアイデアとして原子集団を低次元にトラップするという提案があるが,その有効性はこれまでに示された例はなく,本研究の成果はその提案の有効性を示す初めての成果であると同時にp波超流動の実現に向けた極めて重要なステップであると考える。さらには2体衝突に加えて3体衝突についても3次元系と2次元系での間のロス係数の比較を行った。この成果については現在詳細に考察を行なっている最中であるが,原子集団のロスとトラップの次元の間の関係性を検討する重要なデータとなると考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は,極低温フェルミ原子気体系においてp波超流動の実現を妨げている最も大きな要因であるp波フェッシュバッハ近傍での原子ロスと原子集団のトラップの次元との間の関係を明らかにすることであった。平成29年度の実験結果により原子の2体衝突によるロスである双極子ロスと3体衝突によるロスの両方において,原子の散乱振幅表現の中に現れる散乱体積のパラメータに虚部を導入することでロスの振る舞いが説明できることと,さらにその原子ロスが,トラップが低次元になることにより低減されることが実験的に初めて明らかになった。原子のロスが散乱振幅表現に虚部を導入することで説明できるという事実は現状では物理的に理解できているわけではないが,実験結果をよく再現できているという意味で様々な実験条件におけるロスの振る舞いを予言する理論としての役割を果たすものが構築できたことに対応し,これは原子ロスに打ち勝ってp波超流動を実現しようという本研究においては重要なステップであると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の成果を踏まえて平成30年度は2次元系と1次元系の間での原子集団のロスと次元性の間の関係について実験的に調べる。具体的には原子集団のロスの磁場依存性やエネルギー依存性が散乱振幅表現で説明できるかどうかを調べることで,原子ロスとトラップの次元性の間の関係を明らかにする。また最終的には3次元光格子を導入することで各サイトに原子が2個だけの状況を作り,その状況でp波分子を生成することで光格子の各サイトに1つだけp波分子が存在する状況を作り出す。これによりp波分子の生成効率が向上するかどうかについても実験的に評価する。光格子ポテンシャルが存在したままでは分子は局在化していて超流動は実現できず,光格子ポテンシャルを下げることで分子同士の衝突を起こさせることがp波超流動実現には不可欠である。そこで各サイトに1つずつ分子が存在する状態を実現した後に,光格子ポテンシャルを徐々に下げることにより分子同士の衝突を誘起し,p波分子集団の熱平衡化を図る。p波分子同士が弾性衝突できるようになると,同時にp波分子の振動状態緩和を伴った非弾性衝突も同時に起こり分子のロスを生じてしまう恐れがあるが,理論的に提案されている量子ゼノ効果によるロスの抑制の機構により急激なロスは抑えられる可能性がある。このロスの抑制についてはs波相互作用系ではすでに実験的に確かめられているが,p波相互作用系ではまだ確認された例がなく,ロスの抑制の実験的検証自体も重要なテーマとなる。本研究では光格子ポテンシャルを下げる時間スケールと,外部から印加する調和ポテンシャルの閉じ込めの強さを適切に選択することにより光格子ポテンシャルを下げる過程における弾性衝突と非弾性衝突のレートの比を制御し,その比をできるだけ高い状況を実現することで p波分子の量子縮退を目指す。
|