2017 Fiscal Year Research-status Report
Topological Glass State investigated by novel observation methods for dynamic heteloginety
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17K18754
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 潤 京都大学, 理学研究科, 教授 (10200809)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 動的不均一性 / トポロジカルガラス / フラストレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
相転移や相分離にともなって物質の対称性は低下し、低温側の秩序相では様々な内部構造が現れる。ソフトマターでは液体と固体の様々な中間状態が存在し、物質の多様性に富んでいる。この内部構造とは、濃度・密度・秩序度・歪など、さまざまな熱力学変数の空間変化と関係し、試料中に物理量の空間不均一性を作る。光学顕微鏡は対物レンズと結像レンズにより、空間変化した物理量と結合する屈折率の空間不均一性を実空間で像に変換し、物質の内部構造を観測する有効な手段である。ところが、ソフトマターのうちでも、ガラス・ゲル・臨界液体・過冷却液体といった仲間は、液体と同じ等方的な対称性を有し、密度・濃度・秩序度・歪などの物理量が空間に一様で不均一性がなく、光学顕微鏡では内部構造や物性の本質を明らかにすることができない。一方、これらの物質では「動的不均一性」と呼ばれる「動的構造」が、本質的重要な役割を担うことが最近の理論的研究から判明してきた。しかしながら、動的不均一性は静的不均一性とは異なり、顕微鏡のように像として可視化できる原理がない。本研究ではこの測定法の欠落を原理的に補う。 申請者は通常の顕微鏡の光学系に、ピンホールを挿入し、コーヒーレントなレーザー光で斜め照明することで、全く新しい顕微鏡となることに気がついた。それが本申請の物質中の動的な不均一性を像として得る「揺らぎ顕微鏡」である。揺らぎ顕微鏡では、空間にある内部自由度の揺らぎの緩和時間・強度・位相をスナップショットとして画像化することが可能となる。 本年度は、初めての動的不均一性のスナップショットを得るべく、揺らぎ顕微鏡の基本設計と試作を行い、a)液晶試料に物理的なマスクを施した試料 b)液晶ナノミセル溶液を水中に滴下した過渡的試料 c)部分的にゲル化を施したネマチックゲル試料 の3つをモデルとして動的不均一性の静止画像を得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点において、動的不均一性のスナップショットを記録することに初めて成功した。空間解像度(~100μm)や時間分解能(10msec以上)には制約があるが、モデル的な対象を選定することで、十二分に「動的不均一性」のリアルタイム観察結果をえることができた。さらにこのスナップショットからは、各点における緩和周波数・振幅・位相の強度の絶対値だけでなく、「動的」不均一性を示す領域の密度・界面厚、サイズ、形、モルフォロジー・トポロジー(空間接続性)など、さまざまな動的不均一性の空間構造の特徴を解析できる。 記録には大きなフレームメモリを搭載した高速カメラを使用しており、今後は動的不均一性の動画の観測を準備中である。動的不均一性の画像をt=0から連続的に蓄積することにより、動的不均一性の時間変化を動画として観測できる。動画からは、動的不均一性の空間構造の時間変化、合体・分裂、領域自体の運動(ドリフト)、変形(大きさ・形・空間トポロジーの変化)、生成・消滅などを観測することを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
さらに、次年度は、外場下における動的不均一性の観測にチャレンジする。この新しい原理に基づいた測定技術を用いて、未解明のガラス状態や相転移ダイナミクスを研究する。特に、申請者が発見したトポロジカルガラス状態(並進運動は凍結していないのに配向秩序の競合でガラス化する)や、ガラス物質の破断や融解に関連して、外場による局所的な励起or凍結により、周囲の運動状態がどのように拡散していくかなど、現存の測定法では得られなかった「動的不均一性」の時間・空間変化を実空間で観測することで明らかにしていく予定である。 一方、構造色を示す等方秩序のトポロジカルなガラス状態(位置の秩序ではない新しいガラス状態) 近年次世代高速液晶材料として着目されているコレステリックブルー相(ChBP)、と類似の内部構造を持ち、層状構造を有するSmBPのうち、SmBPIso相は等方性の秩序を持つ特異な相であることが申請者より発見された。その後の申請者の研究から、特殊な濃度の組み合わせにおいて、SmBPIsoは、数10℃以上過冷却し、その相のダイナミクスにはガラスやゲルに特徴的なロングタイムテールが現れることが、動的光散乱測定からわかっている。この過冷却相では、分子の並進運動性が高温相とほとんど変わらず保たれていることも、蛍光拡散の実験から確認しており、分子の並進運動の凍結から起こるガラス化とは全く異なる、新しいガラス状態(トポロジカルガラスとも呼ぶべき)であることが推測される。しかしながら、その構造やメカニズムはほとんど解明できておらず、この揺らぎ顕微鏡によって新たな知見を得ることで、新しいガラス状態であることを証明したい。
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Causes of Carryover |
採択決定が通常より数か月遅れたことと、実験条件により最適な性能を有する光学部品を選定するために時間がかかった。現在では、条件はほぼ割り出されており、30年度当初より最適な部品を選定して、本格的な実験に入る予定である。
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