2018 Fiscal Year Research-status Report
Study on vortex concentration and enhanced vortex growth in superfluid helium
Project/Area Number |
17K18761
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
矢野 英雄 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70231652)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 低温物性 / 超流体 / 量子渦 / 超流動流 / 量子渦集中 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、超流動ヘリウムの回転流に新たな流れを加えることで発生する、新奇な渦の状態を研究する。最近の我々の研究から、粘性のない超流動ヘリウムでも、量子渦を付着させた物体を動かすことで、超流動に流れが生じることを明らかにしてきた。このアイデアをもとに、量子渦を付着させた物体を回転することで超流動ヘリウムの回転流を誘起し、その流れを制御することで、量子渦集中を実現する。これまでの主な研究実績は以下のとおりである。 1.ヘリウムが超流動となる絶対温度2K以下で動作するモーターを開発した。モーターに6枚羽根のブレードを取り付け、超流動ヘリウム中でブレードを回転させることにより、ブレードから離れた位置でも超流動ヘリウム回転流を駆動することに成功した。さらに、回転流の駆動によって、回転中心と周囲との間に圧力差が生じることを確認した。この圧力差を利用し、流れの吸入口と取り出し口を調整することで、超流動ヘリウム流の制御に成功した。 2.超流動ヘリウム流の制御を行い、量子渦集中による巨大渦の生成を確認した。 3.第2音波発生・検出装置を開発した。第2音波の発生には、サブミクロンの多数の孔をもつニュクリポア膜を振動させる。孔の中の常流動成分は粘性のために膜とともに振動するのに対し、超流動成分は振動しない。この現象を利用することで第2音波発生器と検出器を製作し、第2音波の定在波の生成・検出に成功した。 4.ピエゾ振動素子を利用した第1音波生成検出装置を開発した。この装置で第1音波定在波の生成を試みたが、検出することはできなかった。そこで第1音波パルス波の生成・検出装置に改良し、第1音波パルス波の検出に成功した。この装置でモーターが駆動する回転流の音波速度を測定し、ドップラー効果からその流速を求め、モーターの回転速度より回転流速が遅いことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり低温で作動するモーターの開発・製作をおこなった。低温でのモーター駆動における問題点と解決方法について検討し、低温でのモーターの回転に成功した。この低温モーターを用いて、回転流が駆動できることを確認した。 さらに、回転流の状態を観測するために、第1音波と第2音波の生成検出装置を製作した。第2音波は、当初の予定通り定在波の生成・検出に成功した。第1音波では、定在波の検出に失敗したが、パルス波の生成・検出により回転流の流速を求めることに成功した。これらは、おおむね計画どおりの成果である。 しかし、世界的なヘリウム供給事情の悪化のため、研究に必要な液体ヘリウムの供給が十分ではなく、本研究の目標である量子渦集中による巨大渦の音波による観測までには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
量子渦集中による巨大渦の生成条件を確立するとともに、量子渦集中を第2音波によって研究する。第2音波は2流体(超流動成分と常流動成分)からなる超流動状態に特有の音波で、超流動成分と常流動成分が逆位相に動く。量子渦は渦芯まわりに速い循環速度場をもつため、第2音波は量子渦によって吸収されることが知られており、第2音波の減衰比によって量子渦密度を測定することができる。これらを踏まえ、以下の研究を推進する。 1.超流動巨大渦発生装置を製作し、第2音波発生・検出装置を組み込む。静止流体と回転流体における第2音波測定装置はすでに開発し、回転流の量子渦密度の予備的な観測に成功している。製作する巨大渦発生装置にこの装置を組み込み、量子渦密度測定装置を完成させる。 2.1の装置を用いて、巨大渦の量子渦密度を研究する。第2音波を巨大渦中心とその周回の流れ場について同時測定することにより、巨大渦の量子渦密度分布を調べる。また巨大渦発生過程や流れ場を止めた後の渦の拡散過程を調べることにより、量子渦集中機構と巨大渦の構造を明らかにする。 3.第1音波(通常の音波)のドップラー効果を利用して、巨大渦をまわる超流動速度場を研究し、量子凝縮相を記述する波動関数の位相状態を明らかにする。
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Causes of Carryover |
(理由)本研究では、低温を得る寒剤として液体ヘリウムを使用する。液体ヘリウムは、大阪市立大学理学部ヘリウム液化施設より供給(有償)を受けるが、世界的なヘリウム供給事情の悪化のため、液体ヘリウムの供給が不足した。このため計画した額を使用することができなかった。 (使用計画)モーター回転子とその駆動回路や定常流を取り出す流路の製作に、物品費を使用する。製作後に室温および低温での動作テストをおこなうが、これらのテストに寒剤(液体窒素、液体ヘリウム)を使用する。動作テストの完了後に量子渦集中による巨大渦の生成条件の確立をめざす。これらの実験に使用する寒剤も物品費で購入する。
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Research Products
(5 results)