2017 Fiscal Year Research-status Report
Anomalous Magnetism in Quasicrystals and Approximants
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17K18764
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
遠山 貴巳 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (70237056)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉本 貴則 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 助教 (70735662)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 準結晶 / 近似結晶 / スピンアイス / 磁気モノポール |
Outline of Annual Research Achievements |
希土類元素を含む近似結晶で最近発見された磁気秩序は、新たな磁性研究の可能性を示唆している。 近似結晶の構成単位である20面体を結晶全体で眺めると8面体がそのコーナーを共有してつながっている。8面体ではフラストレーション効果が期待されるので、6個の頂点の希土類局在スピンのうち半分が8面体内部を向き、残りの半分が外側を向くスピンアイスとなりうる。そこからの励起は磁気モノポールを生むであろうと予想される。 本年度は、この8面体スピンアイス状態が安定になる条件を探すため、近似結晶における磁気異方性とRKKY磁性に注目して、その基底状態の変化をモンテカルロ計算を用いて調べた。これまでの研究から、軌道磁気モーメントが有限なTbなどの希土類元素を含む近似結晶では、RKKY相互作用に比べ1イオン異方性が支配的であることが分かっている。8面体スピンアイス状態を構成するためには、この1イオン異方性の向きが重要となるが、この向きにはまだ議論が残っている。本研究では、まず異方性軸を5回軸の方向、及びそれと垂直な方向に固定して、基底状態のフェルミ波数依存性を調べた。8面体スピンアイス構造に近い傾斜強磁性状態に加え、実験的に観測されているスピングラスや反強磁性状態に対応する状態を見つけることができた。また、これらの状態が実験的に観測される磁化過程をよく再現することも確認した。以上の結果から、近似結晶における8面体スピンアイス基底状態は、3副格子の強い1イオン異方性と最近接でRKKY相互作用が強磁性的になるフェルミ波数で再現できることが分かった。本研究は、現在、実験結果との比較を含め論文投稿の準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
希土類元素を含む近似結晶で最近発見された磁気秩序を解明するため、20面体頂点に位置する磁気モーメントが従う秩序およびその励起に着目する。本研究では、準結晶とその近似結晶で起こりうるアイスルール(秩序)の有無、およびその励起としての磁気モノポール発現条件を、理論的に明らかにし、これまでとは異なる視点からの新しい準結晶の物理を創出することを目的とする。この目的を達成するため、まずは近似結晶の電子状態計算から有効磁気模型を構築し、スピンアイスの出現条件とその励起としての磁気モノポールの可能性について理論的に検証する。そして、準結晶における未解決の問題とスピングラスとの関係について明らかにすることが、本研究の最終的な目標である。 本年度は、当初の予定通り近似結晶の電子状態を計算し、RKKYのフェルミ波数の推定に用いた自由電子ガス近似がおおよそ良い近似になっていることを確かめた。その上で、結晶場に矛盾しないと考えられる1イオン異方性とスピン間の準長距離のRKKY相互作用を仮定して、フェルミ波数の変化による磁気的基底状態の依存性を古典モンテカルロ法を用いて計算した。この結果、実験と対応する磁気秩序の変化を再現することに成功した。また、この中で8面体スピンアイス構造に対応するような基底状態も見いだすことができた。 一方で、当初予定していたより実験結果との比較に時間を要したため励起状態の解析まで本年度は進まなかった。これは、Au-X-RE系の新たな物質合成が行われ、その実験解析において、当初想定していなかった非自明な現象が複数発見されたことが原因である。これらの現象の一部は、我々の理論解析においても再現できたため、その機構の解明にも取り組んだ。これらの現象は直接スピンアイス構造とは関係ないと思われるが、この近傍では、同様の現象が起こりうると考えられるため、統一的に議論されるべき問題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、準結晶とその近似結晶で起こりうるアイスルール(秩序)の有無、およびその励起としての磁気モノポール発現条件を、理論的に明らかにし、これまでとは異なる視点からの新しい準結晶の物理を創出することを目的とする。この目的を達成するためには、さらに励起状態としての磁気モノポールの可能性について理論的に検証する必要がある。 この目的を達成するため、来年度は、8面体スピンアイス状態が基底状態となるような条件におけるダイナミクスの解析を行う。その手法としてゲージ平均場理論や非平衡状態における時間発展数値計算を用いる。ゲージ平均場理論は、4面体スピンアイス状態におけるモノポールのダイナミクスの解析に用いられる手法であり、8面体スピンアイス状態にも適用可能であると考えられる。一方で、時間発展方程式は、LLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を、有効模型に適用することで実行できる。仮に、ゲージ平均場理論が適用できなかった場合においても、時間発展数値計算の方は確実に実行可能であるため、これだけでもモノポールのダイナミクスを解析することは十分可能だと思われる。これと4面体スピンアイスの比較を行うことによって、モノポールの普遍的な特徴と、模型による差異を明らかにする。 一方で、以上の解析を実験結果と比較することで、大域的な構造が異なる準結晶における磁気的基底状態や素励起の性質について議論する。この際、可能であれば、モンテカルロや時間発展などの数値計算を実行し、近似結晶との類似/相違点を明らかにする。この議論を踏まえ、準結晶における二つの未解決問題である『擬ギャップの存在』と『長距離秩序の不在』の起源の解明する。
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Causes of Carryover |
3月に予定してたアメリカ物理学会に遠山が日程の都合で参加できなくなってしまったため次年度使用額が生じた。次年度は海外旅費として使用予定である。
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