2017 Fiscal Year Research-status Report
酸素アニオンラジカルによる低温酸化亜鉛プロセスと均一な負イオンクラスターへの挑戦
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17K18769
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
比村 治彦 京都工芸繊維大学, 電気電子工学系, 准教授 (30311632)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蓮池 紀幸 京都工芸繊維大学, 電気電子工学系, 助教 (40452370)
三瓶 明希夫 京都工芸繊維大学, 電気電子工学系, 講師 (90379066)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化物プロセス / 酸素負イオンプラズマ / 特定粒子種別プロセス / 酸素アニオンラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
酸素負イオンを生成するプラズマソースの設計を完了し、製作を進めた。プラズマの生成には誘導結合方式(ICP)を用いる。これは、このプラズマがプロセスに供されるため、プラズマ発生室に電極等を挿入しないことで、電極スパッタリングに起因する不純物が混入することを回避するためである。また、ここでのICPには、プラズマ生成室の対称軸に沿って、永久磁石による外部磁場を重畳させている。この結果、酸素プラズマ生成のために必要なガス量を低下させつつも、電子温度を5 eVまで上げることに成功した。輸送部については、酸素負イオンが1 kVの加速電圧で一様に引き出され、その自己電場が無視できる場合、酸素負イオンビームを収束・偏向させるための電磁場シミュレーションを行い、その結果に基づいて、アインツェルレンズ、四重極磁場、ステアリングコイルを設計・製作した。これら装置の構成と実験方法に関する知見に対して、特許出願の準備中である。ペニングトラップ部については、その要素機能を3つ解明した。第一に、荷電粒子群をペニングトラップに閉じ込める際、荷電粒子群が入射してきた側のポテンシャル障壁を閉じる時、ポテンシャル障壁が閉じる時間長と、荷電粒子群のポテンシャル障壁通過時間長が同程度になると、荷電粒子群がポテンシャル障壁上で加速される。この物理機構を実験とシミュレーションで解明できた。第二に、荷電粒子群が電子の場合、その電子群が長い時間ペニングトラップ内に閉じ込められることでバックグラウンドに擬イオンが生成される現象を発見し、この機構の半定量的な説明に至っている。第三に、荷電粒子群がリチウムイオンの場合、そのイオン密度がブリルアン密度の約10分の1に達してきたときに生じるイオンプラズマ変形モードの2次元像の詳細とその解析手法を確立するに至っている。本研究に関する招待講演を米国、中国、日本で、それぞれ一回ずつ行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は均一なナノ粒子の新しい生成手法を確立するために、酸素負イオンプラズマと非中性プラズマトラップを組み合わせるという着眼点からスタートした。酸素負イオンプラズマ源については、様々なスパイラルアンテナを製作して、アンテナ毎のRFマッチング値と、各アンテナが放射する誘導電場の軸方向空間分布は測定できた。また、それらアンテナに対してRFマッチングが自動で行える時に必要な可変コンデンサーの初期設定値についても把握できた。プラズマ生成室には、独自の工夫として、外部から軸方向に定常磁場を印加することで電子の閉じ込めを良くしている。さらに、ICP放電スタート時のガス量とRF入力パワーを低減させつつ、プラズマ生成室内に不純物の原因となる構造物を入れないようにするために、プラズマ生成室のプラズマ引き出しフランジ部の中に熱電子放出用フィラメントを埋め込む型の新しい方法を考案して、生成室を作り直し、この方法による生成実験を行う準備を完了している。酸素負イオンの引き出しについては、加速電圧を上げるとパッシェンの法則に従うような絶縁破壊が引き出し電極間で生じたため、生成室に投入する酸素ガスを定常的に送り込むのではなく、電磁バルブでパルス的に入れる方法に変更し、このための電磁バルブとそのパルスドライバー回路を完成させた。また、これら回路を統合するシーケンサー回路も製作した。現在、これらを用いた引き出し再実験を実施する準備を完了しつつある。酸素負イオンの測定は、輸送系の中間領域と下流側にファラディーカップをインストールすることで、負の電荷量が出るかどうかで行う予定にしている。このための直線導入器とプロトタイプファラディーカップは準備できている。これらと、輸送系の電磁場発生については、個々にはテストが済んでおり、これの統合を行う段階に入っている。
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Strategy for Future Research Activity |
トラップの要素機能に関して明らかにした3つの知見については、すべて学術雑誌への投稿論文とする。この中の1つについては、知財を確保しておいた方がよいとも考えられる内容を含んでいる。これについて所属研究期間の知財担当部署と相談する。ICPプラズマ生成については、学術的にはその放電が誘導結合方式になっているのかどうか、さらには、その時の放電モードがEモードなのか、あるいはHモードなのかを判別する必要がある。酸素負イオンを解離性電子付着過程で生成するためには、バルクプラズマの電子温度が約5.5 eVであることが最も効率的である。一方、この電子温度は放電モードに依存しているという報告がある。これらの過去の知見と照らし合わせながら、学術的特徴を明確にする。負イオン引き出し部とその輸送系を確立させる。現在は、負イオンの加速電圧を1 kVとした時のレンズ光学系を組んでいる。この加速電圧は低ければ低いほどよく、その場合、レンズ光学系も変わってくる。この点については、他研究機関のシミュレーション研究者と連携し、加速電圧、および、ビーム電流値をパラメーターとした収束・偏向レンズ光学系の最適組み合わせを明確にする共同研究を始める。平成30年度の前半で、酸素負イオンのみを引き出すパートを完成させる予定である。この段階で、ある企業との共同研究として、酸化チタン膜のALD実験を実施する計画である。これは本研究のスピンオフとして、現在の超薄膜生成プロセス開発を大きく進展させる新しい原理の検証実験である。この実験を行うための反応容器の準備等を平行して進めていく。
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Causes of Carryover |
当初研究計画で予定していた反応容器の設計と製作について、それらを一時的に中断している。これは2つの理由による。第一に、所属研究機関によって、本研究の一部が特許出願されることに決定したため、知財の確保を急ぐためそちらの準備を優先していること、第二に、本研究で開発を進めている酸素負イオンビームを用いて企業と原子層堆積膜の生成実験を共同で行う話がでてきており、その実験をも合わせて行いやすい反応容器を製作しておく方が、結果的に費用対効果が上がると判断したことによる。
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Research Products
(8 results)