2018 Fiscal Year Research-status Report
行列模型に基づくファットグラフの分子生物学への応用
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17K18781
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
藤 博之 香川大学, 教育学部, 准教授 (50391719)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋上 和弘 九州大学, 数理学研究院, 准教授 (60262151)
村上 斉 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (70192771)
佐竹 郁夫 香川大学, 教育学部, 教授 (80243161)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | ランダム行列 / 位相的漸化式 / ファットグラフ / 量子曲線 / RNA / タンパク質 / 数理モデル / Donaldsonの量子化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では,主に行列模型の漸近展開に関する応用的側面に関する以下の研究を行った. (1)タンパク質のファットグラフモデル, (2)量子色力学(QCD)におけるDirac演算子の固有値分布問題, (3)位相的漸化式に基づく量子不変量の漸近解析, (4)ケーラー多様体に関するDonaldsonの量子化とランダム行列.以下では実績が得られた(1)と(2)に関する研究概要を述べ,(3)と(4)については今後の研究の推進方策の箇所で述べる. (1)の研究テーマに関しては,2月から3月にかけてAarhus大学QGM研究所の学生が来日し,研究を進展させることができた.一つの成果としてあげられるのは,データベースにある様々なタンパク質をファットグラフとして読み込み,そのファットグラフのオイラー数を計算してその分布を調べた.その結果,タンパク質の長さとオイラー数には一定の比例関係があることが判明し,行列模型が示唆する構造と類似のパターンであることが判明した.今回得られたデータは,タンパク質に対する行列模型を構築する上で,非常に有用なものであると考えられる. (2)の研究テーマに関しては,QCDのカイラル有効理論とランダム行列模型の関係を基に,ゲージ群がSU(2)となるQCD-類似の有質量模型に対するランダム行列模型を解析し,Dirac演算子の固有値分布を表す「Janossy密度」に対する行列式表示を求め,数値解析を行った.この結果を格子ゲージ理論の解析と比較することで,QCD-類似模型のカイラル凝縮などの非摂動的物理量を決定することができた.本年度はこの研究結果を論文としてまとめ,3月にarXivおよび雑誌への投稿を行った.(論文は,現在査読中である.)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,QCD-類似モデルのカイラル有効理論を記述するランダム行列模型の固有値分布問題に関する研究内容を論文として発表し,一定の成果が挙げられたと考えている.しかしながら,本研究課題の主眼である,分子生物学と行列模型の関係については,未だにモデルの構築が完成していない状況にある.このため,上記の進展状況であると評価した. QCDのモデルと分子生物学のモデルは,実は本質的にガウス型行列模型であるといった点で共通しており,本年度発表した論文では,ガウス型行列模型に対して直交多項式による解析やモンテカルロシミュレーションによる解析など,様々な手法を基にこのモデルを調べた.そこで,QCDのモデルの解析手法は,今後,タンパク質に対する行列模型が完成した際に有用な解析手法の一つとして使えるものと期待している.こうした意味で,本年度の研究は,基礎的側面が大きく進展したと考えている. この他に,本年度はKIASにてRiemann面の安定写像のモジュライ空間と位相的漸化式に関する講演や議論を,KIASや東北大学,理化学研究所などで行い,その応用的側面の理解を深めることができた.特に,3月には,香川大学で小研究会(勉強会)を開催し,日本の各地から研究者を招待して量子不変量と位相的漸化式の関係を探る機会を設けた.こうした活動の結果,本研究課題の基礎的側面に関する新たな研究の方向性が得られた. 一方,タンパク質のモデルを構築するにあたって,タンパク質のデータが必要不可欠であったが,数年ほど,このデータを解析することができない状況にあった.こうした状況の中,2月から3月にかけて,Aarhus大学QGM研究所の大学院生を招聘し,議論を行ったところ,ファットグラフでタンパク質を特徴付ける,長さとオイラー数の分布データが得られ,モデルの構築へ向けて大きな足がかりが得られた状況にある.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では,本年度得られたタンパク質の長さとオイラー数に関する分布データを基に,タンパク質をファットグラフで記述し,行列模型を用いた数理モデルを構築することを目指して研究を推進する.また,これと同時に,数理モデルの解析手法の開発を目指した基礎研究を行う予定である. 基礎研究に関しては,ランダム行列模型の応用的側面を探り,主に漸近解析を中心に以下の研究を推進する予定である. (1)結び目の量子不変量の漸近解析, (2)ケーラー多様体に関するDonaldsonの量子化とランダム行列. (1)の研究に関しては,色付きJones多項式の漸近展開を行い,体積予想とその一般化について考察を深める.これまでに,8字結び目やトーラス結び目など,様々な結び目に対して体積予想の研究が進められてきた.しかしながら体積予想は3次元球面内の結び目でなく,より一般的な3次元多様体の中の結び目に対して,どのような形で成立するのか実際には明確ではない.この問題を検証するため,具体的にSeifert多様体の中の代数的結び目(Seifertループ)に対し,量子不変量の漸近的振る舞いを調べる予定である.さらに,この漸近展開の結果と行列模型で用いられる位相的漸化式による計算結果との比較を行い,行列模型の手法が量子不変量の解析にも役立てられる可能性を探る. (2)の研究に関しては,ケーラー幾何学の安定性に関する研究において,Donaldsonによって提唱された量子化構造について,ランダム行列による解釈を探る研究を行う.Donaldsonの量子化にはHilb写像とFS写像が登場し,その漸近解析を通じてケーラー幾何学の安定性を調べるためのエネルギー関数が得られる.今後の研究では,Hilb写像とFS写像の背後に潜むランダム行列を見出し,Donaldsonの漸近解析が行列模型の漸近解析として解釈する試みに挑戦する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,以下の2点にある.まず,デンマークAarhus大学の共同研究者が日本に1ヶ月ほど来日した際,滞在費の補助を目的に使用する予定であったが,その補助が滞在先の理化学研究所から得られたため,この使用計画が変更となった.もう一つの原因は,近日発売予定の計算機数を値計算用に購入する予定であったが,発売が延期となり,購入できなかったためである. この使用できなかった分は,次年度にAarhus大学への滞在費ならびに,Aarhus大学からの研究者招聘費,および,計算機の購入費用にあてる予定である.
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Research Products
(13 results)