2019 Fiscal Year Research-status Report
高感度CMB望遠鏡で拓く宇宙背景放射観測の新たなチャンネル
Project/Area Number |
17K18785
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西野 玄記 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (80706804)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
|
Keywords | 宇宙マイクロ波背景放射 / インフレーション宇宙論 / 円偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のこれまで本格的な観測が行われてこなかった円偏光成分を探索することにより、新たな宇宙論的観測の可能性を切り拓こうとするものである。そのために、近年目覚ましい発展を遂げているCMBの直線偏光観測実験のデータ、特に半波長板と呼ばれる光学素子を用いて観測されたデータを再解析することにより、円偏光成分の情報を取り出す新しい手法を開発し、それを実際の観測データの解析に応用することを目指して研究を進めてきた。 2019年度は、新型CMB偏光受信機システムを用いた新たな観測による円偏光成分探索のための半波長板の試験データの取得とCMB偏光観測実験POLARBEARの過去のデータの再解析を中心として研究を推し進めてきた。過去のデータの再解析においては、実験室において行われた半波長板の特性評価データを掘り出して再解析することにより、POLARBEAR実験の円偏光成分に対する検出効率を見積もった。直線偏光に対する感度と比べれば円偏光観測の感度は劣るものの、それを考慮してもPOLARBEARの統計感度・角度スケールにおいては、世界最高レベルのCMB円偏光探索を可能とするポテンシャルを持つことが確かめられた。それと並行して、新たにCMB円偏光解析パイプライン・CMB円偏光シミュレーションを開発し、データ解析を進めている。 今後、研究期間を一年間延長することで、系統誤差の研究など、詳細な検討を進め、POLARBEAR実験のポテンシャルをフルに活かしたさらなる高感度解析を実現することを目指して研究を推進し、研究期間中に解析結果を発表する計画である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度においては、新たな研究協力者と共に研究を遂行することで、本研究において鍵となる光学素子の再評価に大きな進展があった。それと並行して、円偏光データ解析パイプラインの開発なども進められた。現時点で外部に公表できる結果は限られているものの、データ解析面において着実な進捗があったといえる。 一方で、新たなCMB偏光受信機システムを用いた観測に関しては、それを用いた本格的な観測までには至っていないものの、本研究の範疇である次世代実験に向けた可能性の開拓という観点においては、試験観測のデータ取得に関する進捗など、一定の成果を挙げられている。したがって、2019年度の研究はおおむね順調に進展したものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果を発表するために必要な解析の最終段階を完了させるために、研究期間を一年延長して2020年度も引き続き本研究課題を継続する。 過去の計画において予定されていた、チリ・アタカマ砂漠による新たな観測データの取得などは、新型コロナウイルスの流行による厳しい海外渡航の制限が一定期間続くことを鑑み、本研究では、今後は新たなCMB観測データの取得に依存しない研究に集中することとする。 そこで、POLARBEAR実験において過去に取得された観測データの解析に注力する。開発されてきたCMB円偏光パイプラインを用いて、系統誤差の詳細な見積もり、データ検証などを進める。系統誤差の研究においては、実験室における光学素子の測定も検討している。その際には、研究協力者のサポートを得て既存のセットアップを応用することにより短期間でデータを取得する。それらの研究により、世界最高感度でのCMB円偏光探索を実現し、結果を公表する。
|
Causes of Carryover |
2019年度までの研究により、円偏光測定のための系統誤差の重要性が明らかになり、その詳細な研究のためにチリ・アタカマ砂漠の観測サイトに設置された装置を日本まで持ち帰って再測定することを計画したが、観測サイトでのトラブルにより計画が頓挫したため、その必要経費が次年度使用額として生じた。 2020年度においては、世界情勢の変化により海外から装置を持ち帰る計画は変更し、代わりの光学素子を用いることで実験室における系統誤差研究のための測定を計画し、そのための測定セットアップ再構築のために必要な導波管回路部品などの購入を中心として使用する計画である。また、共同研究者との打合せや論文出版費用など、研究を完了させるための諸費用として使用することを計画している。
|