2017 Fiscal Year Research-status Report
ひまわり8/9号による短寿命気候汚染物質オゾン濃度の高精度導出
Project/Area Number |
17K18801
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
齋藤 尚子 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 准教授 (50391107)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 短寿命気候汚染物質 / オゾン / ひまわり8号 / GOSAT / リトリーバルアルゴリズム開発 / 雲判定 |
Outline of Annual Research Achievements |
短寿命気候汚染物質SLCPsは、今後、約20年間に人間活動が原因で起こる温暖化の約半分に寄与すると考えられている[UNEP/WMO, 2012]。これまで、人工衛星によるオゾン観測は、成層圏オゾンに着目したオゾン全量観測が中心で、全オゾンの1/10以下の量しかない対流圏オゾンのみを衛星によって広域で高精度に観測することはまだ研究途上である。本研究の最終目標は、主要なSLCPsである中・上部対流圏オゾンの濃度情報を静止気象衛星ひまわり8/9号の赤外バンド(9.6μm)データから導出することができるかを明らかにすることである。 H29年度は、ひまわり8/9号の9.6μmバンドから導出されるオゾン濃度の高度情報と、ひまわり8/9号に同期したGOSAT/GOSAT-2の9.6μm帯スペクトルから導出されるオゾン濃度の高度分布を比較するために、まず、同期するGOSAT/TANSO-FTSの観測視野とひまわり8号の観測視野を抽出する作業を行った。TANSO-FTSの空間分解能が約10.5 kmであるのに対し、ひまわり8号の空間分解能はバンドによって異なるが0.5 kmから2 kmであるため、ひまわり8号の観測データの中心がTANSO-FTSの観測視野内にあり、かつ、ひまわり8号の観測開始時刻の前後1分以内に取得されたTANSO-FTSの観測データを同期データとして抽出した。 GOSAT/TANSO-CAI及びTANSO-FTSのデータに基づいて晴天域と判定されているTANSO-FTSの観測スペクトルデータを用いて、オゾン濃度プロファイルの導出を試みた。その際、昼間のTANSO-CAIによる雲判定及び昼夜間のTANSO-FTSによる雲判定を、同期するひまわり8号の雲判定と比較したところ、両者に20-40%の不一致が見られることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は、当初はスペクトルデータ用のline-by-lineモデル(LBLRTM等)[Clough et al., 2005]を使用して、ひまわり8号のバンドデータ及びGOSAT/TANSO-FTSのスペクトルデータの観測を想定した放射伝達計算を行い、作成した疑似観測データを用いてオゾン濃度導出シミュレーションを実施する予定であった。 しかしながら、ひまわり8号データのアーカイブの使用が想定したよりも容易であったため、GOSAT/TANSO-FTSとひまわり8号の同期観測データを抽出する解析作業を先に実施し、TANSO-FTSの実観測スペクトルデータから導出したオゾン濃度プロファイルのデータ質を著しく損なう観測視野内の雲の被覆状況について、GOSATとひまわり8号のそれぞれの同期観測データをもとに評価する研究を実施した。 その結果、GOSATとひまわり8号で同期する観測視野内の雲判定が異なるケースが20-40%存在しており、特にひまわり8号の雲判定で曇天と判定されているにも関わらずTANSO-CAI及びTANSO-FTS の雲判定で晴天と判定されているTANSO-FTSの観測シーンが、抽出したシーンの10%から30%近く存在していることがわかった。このようなTANSO-FTSの観測地点は、ひまわり8号の雲判定が正しいとすると、本来は通常の温室効果ガスの導出処理を行うことに適していない観測地点であると考えられ、濃度の導出結果の信頼性も低いと言える。今後、両者のオゾン濃度の導出結果を比較・評価する上で、両者が確実に晴天である観測シーンを注意深く選択する必要があることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、GOSAT/TANSO-FTSとひまわり8号の同期観測データを抽出する解析作業を行い、GOSATとひまわり8号で同期する観測視野内の雲判定が異なるケースが20-40%存在していることを明らかにした。本研究では、ひまわり8/9号の低波長分解能バンドデータから導出したオゾン濃度の高度情報と、ひまわり8/9号に同期したGOSAT/GOSAT-2の高波長分解能スペクトルデータから導出した高高度分解能のオゾン濃度の高度分布を比較して、ひまわり8/9号から導出した高度分布の妥当性を検証し、SLCPsオゾン濃度、すなわち、特に気候変動に影響が大きい「中・上部対流圏オゾンカラム量」の推定を試みるものであるが、H29年度の結果から、両者の観測視野が確実に晴天であるケースを選択する方法を検討しなければ有意な比較ができないことがわかった。 今後は、ひまわり8号とGOSAT/TANSO-FTSやそのほかの衛星(ACE-FTSなど)の同期する観測シーンを抽出する作業を進めて、それぞれのデータをもとに観測視野内の雲の有無を判定する手法の高精度化に努める必要がある。さらに、GOSAT/TANSO-FTSから導出されたオゾン濃度のプロファイルの妥当性を、他データ(他衛星、ゾンデのオゾン観測データなど)を用いて検証し、ひまわり8号と同期する観測シーンでのオゾン濃度プロファイルのデータセットの高精度化を行わなければならないと考える。
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