2017 Fiscal Year Research-status Report
Control of Superstructure and Functionalization of DNA by THz Wave Illumination
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17K18889
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大木 義路 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70103611)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 麻弥 国立研究開発法人情報通信研究機構, 電磁波研究所電磁環境研究室, 主任研究員 (90360643)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 遠赤外分光(FT-FIR) / THz時間領域分光(THz-TDS) / デオキシリボ核酸(DNA) / 水素結合 / シトシン / リン酸 / デオキシリボース |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は,1本鎖DNA溶液およびDNAを構成する分子に対してテラヘルツ(THz)光を含む遠赤外分光を実施し,吸収スペクトルの取得と解析を行った。試料は,アデニン(A),チミン(T),シトシン(C),グアニン(G)の4種類の塩基のうち1種類のみで構成された1本鎖DNAおよび,DNAの構成要素であるCを塩基とするヌクレオチド,ヌクレオシド,C塩基単体,デオキシリボースである。 1本鎖DNAは水溶液に溶解させた後,フーリエ変換型THz分光光度計(FT-THz)を用いて,100~600cm-1にわたる吸収スペクトルを取得した。全ての1本鎖DNAに共通して,ブロードな吸収ピークが存在する一方で,各々の1本鎖DNAに固有な吸収ピークが存在することを確認した。DNA構成要素は,高密度ポリエチレン(HDPE)と混合させ錠剤状に押し固めたものを試料とした。この試料に対して,FT-THzおよびテラヘルツ時間領域分光装置(THz-TDS)により100~600cm-1,16.7~167cm-1にわたる吸収スペクトルを取得した。FT-THzの結果において,C塩基およびデオキシリボースには出現しないが,それらが結合したCを塩基とするヌクレオシドにおいてのみ出現する吸収ピークの存在を確認した。また,Cを塩基とするヌクレオシドとヌクレオチドの吸収スペクトルを比較した結果,ヌクレオシドには出現しないが,リン酸が結合しているヌクレオチドには出現する吸収ピークの存在を確認した。THz-TDSから得られた吸収スペクトルでは,吸収ピークなどのスペクトル形状が各DNA構成要素で全て異なっていた。 以上より当該年度では,DNAまたはDNA構成要素をTHz分光法により測定可能であることを検証し,吸収スペクトルから一部構造の帰属の同定が可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究実施計画では,DNAにTHz波を照射することで水素結合誘起・解離運動を制御し,DNAを母材とした機能性材料創製の可能性を探る準備段階の実験を予定していた。照射実験を行う上で,THz帯に存在する可能性がある水素結合に基づく吸収帰属の同定は重要であり,DNAをTHz分光法で測定可能か検討する必要があった。そこで,当該年度では,DNAまたはDNA構成要素の吸収スペクトルの取得および帰属の同定を目指し実験を行った。1本鎖DNAおよびDNA構成要素をFT-THzないしTHz-TDSを用いて測定を行い,THz吸収スペクトルを取得した結果,4種類の塩基うち1種類のみからなる1本鎖DNA固有の吸収ピークの存在および,DNA構成要素であるC塩基,リン酸,デオキシリボースそれぞれに基づく吸収ピークを確認した。DNAまたはDNA構成要素の吸収スペクトルの取得および帰属の同定を行えたことから,研究の進捗状況として概ね順調に進展していると考えられる。 なお,上記の成果については,後述のように2件の学会発表を行い,成果の関連研究者への周知に努めるとともに,関連研究者との討論を通じて我々の考察の検証に努めた。今後,この2件の学会発表の査読付き論文化を行ってゆく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には,DNA内に存在する水素結合の非破壊観測を目指し研究を進める。試料として,DNAの分子配列を設計することによりループ部分と水素結合した塩基対からなる2重鎖を形成したシステム部分をもつヘアピン構造DNAを使用する。水に溶かした後に乾燥させたヘアピン構造DNAに対して,THz-TDSおよびFT-THzによる測定を実施し,吸収スペクトルを取得する。得られたスペクトルと,29年度に同様の手順で取得した1本鎖DNAの吸収スペクトルとを比較することで,DNA塩基間の水素結合が吸収スペクトルに与える影響を検討し,THz分光によるDNAの水素結合の非破壊観測を試みる。 平成31年度には,THz吸収スペクトルの経時変化の検討および水素結合の解離運動の制御を目指し研究を進める。水に溶かしたヘアピン構造DNAに加熱処理を加えることで水素結合を解離させ,30年度と同様に吸収スペクトルを取得する。得られたスペクトルと,加熱処理を加えていないヘアピン構造DNAのスペクトルを比較し,水素結合が解離することで吸収スペクトルに生じる変化(吸収ピークの消失または出現など)を検討する。検討結果をもとに,DNAにTHz波を照射することで,水素結合の結合・解離の制御が可能か試みる。 一連の実験から得られた結果を取りまとめ,国内学会および国際学会での成果発表を行うとともに査読付き論文誌への投稿を行う。
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Causes of Carryover |
本研究においては、試料として使用するDNAの購入費が経費のかなりの部分を占める。科研費の交付内定通知を頂く少し前に別予算で手当てしていたDNA試料が本科研費研究に使えたため、本科研費としてはDNAの購入費が予想を下回った。今年度においては、より多数の実験を行う予定であり、残された予算は有効に使われる予定である。
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