2018 Fiscal Year Research-status Report
On the practical use and development of environmental design incorporating multiple stimulation, at a facility for severely handicapped children.
Project/Area Number |
17K18933
|
Research Institution | Gifu National College of Technology |
Principal Investigator |
今田 太一郎 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40300579)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 哲 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80321438)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
|
Keywords | 認知発達過程 / 重症心身障がい児 / 施設の装置化 / 多重刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、H29年度に作成したピアジェの発達理論に基づく発達モデルを実際の生活の中で起こる現象と照合することで、更に精緻化した。更に施設環境について、入所者の生活スケジュール、プログラム、施設内の移動、各空間の設え及び、プログラムの具体的行為内容、温湿度、音環境について施設を構成する各空間と対応させた分析を行い、施設環境が内在する環境刺激の要素を把握した。この環境要素と前述の再構成した発達モデルとを重ねることで、施設環境の中で起こりうる重症児の認知の発達のフローを作成するとともに、環境刺激が通常の生活と異なる環境下である施設環境で課題となる物的要素や刺激の種類の少なさといった環境刺激要素の過少さやバギーによる移動と移動の際の照明状態や設えなどの環境要素の変化といった施設固有の環境刺激要素を活かせる可能性を明らかにした。 また、H29年度実施した施設周辺環境の分析を発展させた。前年度は、施設に隣接する公園を含めた公園環境、市街地空間などについて分析を行ったが、今年度は、都市部で行われるマーケット空間の賑わいについて、環境を経験(観測)する主体を取り巻く環境刺激という観点から、調査・分析を行い、刺激要素の分散的配置、音、視覚、匂いという多様な刺激要素が、連関し、動きの流動性を生み出すこと、それらの関係しあう刺激の総体としてマーケットらしさが認識されることを明らかにした。この環境の“らしさ”に関する研究は、外部に出ることが少ない入所者が重症児施設内で様々な特性を持った環境についての経験をするための施設環境でのシーン作成と関わっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度では、研究対象とした重症児施設入所者の心理面、行動面の把握が困難であったため、医療・福祉関係者との間で領域横断的、かつインタラクティブな実践的研究の枠組みを構築し、研究を進めることで、医療・福祉関係者を媒介に観測しづらい重症児の状態を研究に結びつけた。H30年度はこのインタラクティブな枠組みに基づいて、研究の進展を図ってきた結果、ピアジェの認知発達理論を土台に重症児施設を対象として、重症児の障がいや時系列的発展を考慮した発達環境を評価する理論的枠組みを構築することができた。 H30年度では、更に領域横断的研究を進めた。具体的には、共同する建築環境研究者による温湿度、音環境の計測データを施設の生活環境に関するデータ(生活スケジュール、プログラム、設えなど)に組み込み、協働し、多面的な視点から環境刺激要素の分析を行うことで、施設環境が内在する刺激要素について総体的な実態把握が可能となり、施設環境における認知発達の可能性の見取り図の作成につながった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究はこれまで、重症心身障がい児施設「S」を対象に、施設スタッフと協力して進めてきた。このインタラクティブな研究プロセスを進める中で、環境が内在する刺激要素に着目し、認知発達の理論と結びつけることで、施設環境総体を認知発達の装置として機能させるという“環境刺激装置”という概念を構築してきたことはここまでの研究の成果であるといえる。 今年度、研究はハード、ソフトにわたる様々な環境刺激要素を既存の重症児施設に組み込むことで施設の“環境刺激装置”化を図り、その効果について調査分析を行う臨床段階に進める。しかし、開所後2年を経て、重症心身障がい児施設「S」の長期入所者は、ほとんど刺激に対して反応を示さないこと、療育を重ねても状況に変化が生じないことが明らかとなってきた。そこで生活環境の中での体験に対して、感情、認識、行動が反応として現わせる段階の障がい児が入所する施設に研究対象を再設定する必要がある。研究対象の再設定にあたっては、東海地区に研究対象の範囲を広げ、入所者の障がいの状態を考慮し、聞き取り調査などにより候補を選定する。更に選定した候補の中から本研究の視点の共有が可能で、研究・実践においてインタラクティブなプロセスを実施しうる対象を絞り込み、研究対象を決定する。
|
Causes of Carryover |
本研究は当初、早い段階で、重症心身障害児を対象とした実践的研究試みを行う予定であった。しかし、当初の予想以上に対象施設に入所する重症児に様々な刺激に対する反応が心理的、行動的にもほとんど観察されない状況があり、研究チームと日常的に重症児と触れ合う施設スタッフとのインタラクティブなコミュニケーションを媒介として重症児の生活環境のあり方を探るという方法を中心として研究を進めた。そのため、当初予定していた実験的な環境改善および、観察調査による研究の実証という段階で予定していた経費の利用が大幅に減少した。しかし、次年度では、これまでの研究の集積を元に、実践的、臨床的試みを進めていくため、様々な環境刺激要素の製作に未使用の経費を使用する予定である。また、研究成果を周知するため、複数回の研究発表を予定している。
|
Research Products
(4 results)