2018 Fiscal Year Research-status Report
整合多層膜の自己調整応力場を用いたクロスオーバー状態の誘起と機能性の創出
Project/Area Number |
17K18970
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今野 豊彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90260447)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 貴久 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50758399)
木口 賢紀 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (70311660)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 強誘電体 / 構造解析 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
酸化物強誘電体材料は、エコーやソナーといった超音波デバイス、記憶媒体であるメモリデバイス、環境振動や熱を利用したエナジーハーベスターといった様々な分野に応用されており、我々の生活に不可欠な材料であるが、材料を効率的に用いるためには外場に対する応答性を高める必要がある。誘電材料における応答は自発分極であり、分極の大きさは結晶構造すなわち相に依存するが、この研究では相の揺らぎを化学組成と弾性場という二つの熱力学的パラメータで制御することを目的とする。 今回は化学的積層法(CSD法)を用いて、外場に対する応答性の高い Pb(Mg,Nb)O_3-PbTiO_3 (PMN-PT)多層膜を作成した。具体的な制御パラメータとしてはそれぞれの層の組成と厚さであり、PTの組成を変えた膜を交互に積層し、生成した相の同定と界面に生じる歪みをエックス線回折と電子顕微鏡観察で行った。 その結果、歪が小さくなる組成においては90°ドメイン構造に対応して格子回転が各層を貫通して存在することがわかった。一方、歪が大きくなる多層膜構造では90°ドメイン構造はほとんど消滅し、表面層にわずかに存在する程度であった。さらにこれらの挙動と対応する形で生成する正方晶(Tetragonal, T相)から菱面相(Rhombohedral, R相)に推移するという傾向が存在することを見出した。 また実験技術という観点からは、通常の走査型電子顕微鏡(STEM)における円環状検出器の位置を変化させることによる歪の検出を検討し、適切な取り込み角によって得られたイメージは歪分布が反映されていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であった、通常の大気圧下での状態図で予想される構造の組成依存性が、応力場により逆転するという現象をPb(Mg,Nb)O_3-PbTiO_3 (PMN-PT)多層膜系において実際に観察した。すなわち、相構造の逆転が応力によって起こることが明らかとなり、当該研究に基本的な予想が現実のものとなった。一方で、この現象に対する定量的な理解はこれからであり、そのためにはミスフィット転位による歪の緩和現象を評価する必要がある。 実験手法という観点からすると、化学的堆積法のよる組成の制御が種々の組成において可能なことを分析電子顕微鏡を駆使することにより、ナノレベルで実証した。 さらにPb(Ti,Zr)O_3系についても組成を変化させた薄膜の構造を調べることにより、バルクで得られる相境界から組成がずれていることが見出され、現在、基板による拘束した条件下での相の安定性について引き続き調査している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見を強誘電体の中でも圧電特性に優れた Pb(Zr, Ti)O_3(PZT)に応用する。この材料系では菱面相(Rhombohedral, R相)と正方晶(Tetragonal, T相)が拮抗し、弾性場によって構造の揺らぎが生じると考えられている。ところが基板とPZTの界面において生じるミスフィット転位が歪を緩和すると同時に、複数の方位の異なるドメイン生成の起点として機能することが先行研究から判明している。また基板とのエピタキシャルな関係から薄膜内に付加される歪も膜厚の増加とともに解放されるはずである。 従ってこれらの状況を定量的に評価することが必要であり、我々は走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて原子レベルで界面をイメージングするだけではなく、歪を定量的に抽出することを計画している。すなわち幾何学的位相回復法(GPA)を併用することにより、基板付近の転位のイメージング、ドメインの同定、膜圧方向への歪み変化を定量的に見積もる。 これにより弾性場を定量的に把握できるが、一方でもう一つの熱力学パラメータである化学ポテンシャルを作成する試料の組成比を換えることで制御することで、二つの変数を独立に制御する。具体的には PZT を合成する過程で Zr/Ti 比を換え、R相とT相の組成相境界を弾性場の関数として整理する。 このようにして相境界を制御された材料に対し、誘電特性を測定することで自発分極の回転の起こりやすさを検出し、最終的には巨大な誘電率変化として検出することを目指す。
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Causes of Carryover |
消耗品による残額が生じたため。薬品等の試料作成のための消耗品の購入に充当する。
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Research Products
(12 results)