2017 Fiscal Year Research-status Report
In-situ high-resolution observation and analysis of passive film of stainless steel in aqueous solution by atomic force microscopy
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17K18997
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
王 栄光 広島工業大学, 工学部, 教授 (30363021)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土取 功 広島工業大学, 工学部, 教授 (20771801)
福島 千晴 広島工業大学, 工学部, 教授 (30262752)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 不働態皮膜 / ステンレス鋼 / その場観察 / 原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
ステンレス鋼表面に不動態皮膜が形成するため、高い耐食性を有している。不働態皮膜の解析は、次世代材料の開発に極めて重要である。これに応えるため不動態皮膜の成分・構造を表面と深さ方向で3次元的にその場で解析していく必要がある。本年度では、X線光電子分光分析装置を用いてSUS304ステンレス鋼表面に自然に形成した不働態皮膜に対して、深さ方向での成分および結合状態の分布を調べた。また、硫酸水溶液にもたらす不働態皮膜の溶解挙動を把握するため、0.05M硫酸水溶液中でSUS304ステンレス鋼の自然電位を測定したのち分極を行い、不働態皮膜の存在状況を推測し、鋼の溶解速度をマンスフェルド法に基づき得た。とくに、原子間力顕微鏡(AFM)および溶液セルを用いた水溶液でのその場観察に適するSUS304ステンレス鋼の数種類の試験片を試作し、純水および硫酸水溶液中で不働態皮膜の表面および断面が高感度に観察できるかどうかについて繰返し挑戦してみた。これによって、水溶液中におけるAFMによるその場観察のテクニックが掴まれ、ナノ領域で鋼の表面および断面に対する観察が順調に進んできた。また、不働態皮膜の断面形態を調べるため、(i)鋼/皮膜/樹脂、(ii)鋼/皮膜/金膜/樹脂および(iii)鋼/皮膜/金膜の3種類試験片を試作してから観察に運んだ。しかし、水溶液中でエポキシ樹脂がナノ領域で不安定であり、不働態皮膜の断面観察に適用できないことがわかった。一方、エポキシ樹脂を使わずやや厚めの金膜を張った鋼/皮膜/金膜試験片に細心を払って操作し、水溶液中のナノ領域で断面観察が成功した。しかし、ナノレベルで鋼の断面に直角が作れず蒸着金膜が不働態皮膜を覆ったため、不働態皮膜の断面形態の観察に至らなかった。これについて、次年度に試験片の作成および観察プロセスに工夫して再挑戦したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)ステンレス鋼の不働態皮膜の断面形態を水溶液中で原子間力顕微鏡(AFM)によって観察するには、特別な試験片を多数作製しなければならない。これに費やした時間が計画より長かった。また、水溶液中でマイクロプローブを使ってナノ領域を観察する際、試験片の設置ステージが狭くまた溶液漏洩対策を講じながら丁寧に行い、失敗が多くかつ多数の観察が要するので、必要な時間が長かった。 (2)AFMによる観察では、マイクロプローブが観察対象をなぞることによって3次元形状を得る。一方、ステンレス鋼の不働態皮膜の厚さはわずか数ナノメートルなので、マイクロプローブが皮膜の崖から落ちないように密着の良い隣接部を予め作製する必要がある。この隣接部の安定性を考え、計画通りエポキシ樹脂や金膜を付着させる対策を実施した。しかし、実際の観察では予測外れの樹脂の吸水による界面へのマイグレーション現象がナノ領域で起こり、不働態皮膜の断面形態の観察に至らなかった。その次の対策を検討することになり、進捗状況が計画よりやや遅れた。 (3)不働態皮膜の断面観察には、不動態皮膜を含めた鋼の側面に直角が求められる。マクロ分野では簡単に実現できるが、ナノ領域では機械研磨の際どうしても曲がりが生じ、後の蒸着では金が皮膜を覆うようになった。また、硫酸溶液中では金の電位が高く腐食が生じないので、その下に覆われた不働態皮膜が表面に露出できなく、観察が難航になっていった。これについて、次年度に試験片の作成および観察プロセスを工夫して再挑戦したい。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)不働態皮膜のXPSによる分析には、皮膜深さの基準が取れていない。今後、標準試料SiO2/Siを用いてキャリブレーションを取る。また、硫酸水溶液中での不働態皮膜およびステンレス鋼母材の腐食挙動を引き続き調査し、AFMによるその場観察の条件設定に有用な情報を提供する。 (2)AFMによる液中でのその場観察には、不働態皮膜の断面を露出させるための試験片の作製が難点である。ナノ領域での直角の作製が難しいことは認識しており、これから精密研磨に工夫し皮膜を覆う金を取り除き、不働態皮膜が直角的に露出するように努力する。 (3)硫酸水溶液で時間経過に伴った平面での皮膜の変化を観察・解析する。また、断面観察においては前述の試験片を使って、時間変化に伴う皮膜/母材界面での変化を注目し、皮膜の溶解・生成挙動を記録する。また、AFM観察感度をさらに向上するため、先端曲率半径の小さいマイクロプローブの適用を検討する。 (4)溶液を自由に取替できるフロー型溶液セルを自作し、溶液の変化(硫酸やCl-濃度の増減)などによる皮膜の生成・溶解・破壊などの様子を観察する。特に溶液中にCl-がどのように皮膜の破壊に働くかについて調べる。また、ポテンショスタットを用いて表面を分極した際の皮膜の変化を解明する。なお、皮膜の粒界や析出物近くでの皮膜の変化を観察することによって、皮膜破壊のプロセスを解明したい。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」の欄に記述したように、研究の進捗状況がやや遅れたため、得られた結果を学会で発表することに至らず、計画した旅費が余り、次年度使用額が生じた。次年度では、「今後の研究の推進方策」に記載したように、研究を進め研究の成果を予定の学会に発表する経費として使用する。
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