2018 Fiscal Year Research-status Report
スピン偏極STMによる電界駆動Fe/MgO磁気デバイスの原子欠陥制御
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17K19023
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山田 豊和 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (10383548)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン偏極STM / MgO / Fe / 表面磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究は全て、自作の極低温・超高真空・走査トンネル顕微鏡(STM)装置内にて実施する。10 Kにて、Fe(001)基板上のMgO原子層膜上にFe原子を吸着する。STM分光値の印加磁場依存性を計測することで、Fe原子の磁気異方性の計測を目指す。STM探針からの電界による磁気異方性効果も探る。 Fe/MgO(001)薄膜系は、最も磁気抵抗比が高く(約200%)、新たな超小型・省エネスピントロニクスデバイスである。レアメタルを使わない省資源材料としても注目されてきた。既に市販パソコン等の情報端末の磁気情報読み取り用の磁気抵抗センサー、およびGPS位置情報読み取りセンターとして幅広く使用されている。更なる素子性能向上のため研究開発が進んでいる。しかし、理論予測の磁気抵抗比1000%には遠く及ばない。原因は、Fe/MgO界面でのFe酸化物等の生成が指摘されているが詳細は不明である。 さらに、2015年以降、厚さ0.3-1.0 nmという原子レベルまで薄くしたFe/MgO超薄膜の作製と研究が盛んである。金属であっても0.3-1.0 nm厚さであれば電界が侵入できる。電界による磁気モーメント制御が確認されている。しかし、原子レベルで薄いということは、原子欠陥や界面対称性といったバルクでは無い効果が磁気特性を支配する。 STMは原子分解能を有する。我々は、Fe(001)基板上に、原子レベルで平坦なMgO超薄膜(厚さ~0.6 nm)の作製およびFe原子吸着に成功した。本研究成果は、今後のスピントロニクスデバイス用のFe/MgO超薄膜の機能向上において極めて有益である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
透過電子顕微鏡の断面図より、デバイスで使用されているFe/MgOスパッタ膜には、数nm毎に原子ステップ欠陥(~0.2 nm段差)が存在する事が知られている。つまり、極めて欠陥が多い。0.3-1.0 nm厚さの膜において、原子欠陥は致命的な特性変化を生ずる。 デバイス特性の原理解明のため、欠陥が極限まで少ないMgO超薄膜(厚さ300-600 pm = 1-2原子層分)の作製を目指した。原子レベルで平坦で、テラス幅100 nmを超える MgO超薄膜の作製は、Ag(001)基板上で報告されている。本研究で我々は、貴金属より活性なFe(001)基板上にMgO薄膜の成長を試みた。極めて高純度なFe(001)ウィスカ単結晶基板を使用した。超高真空STM装置準備槽にて清浄化と平坦処理を繰り返し、幅100 nmを超える原子テラスを得た。このFe(001)表面にMgを分子ビームエピタキシー(MBE)成長させた。Mgはsub-ML量だけ吸着した。特定の酸素雰囲気と基板温度で、幅100 nmを超える大きく平坦なMgO bilayer島(厚さ~600 pm)の作製に成功した。STM分光より電子状態を確認した。フェルミ準位上+1 eVから-2 eVまで、約3 eVのギャップを有した。 作製した原子レベルで平坦なMgO膜上にFe原子を吸着した。何回か試みたがFe原子を確認できなかった。同量をCu(111)基板につけた際はFe原子を確認した。四苦八苦した結果、ようやく特定のSTM電圧・電流領域でFe原子を確認できた。MgOは絶縁である。フェルミ準位近傍に電子は無いため、Fe原子とMgO基板との結合は極めて弱い。僅かに強い電界印加でFe原子は容易に針側に飛んでしまうことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
Fe(001)基板上にMgO超薄膜の作製し、Fe原子を吸着、STM観察できるところまでこぎつけた。また、Fe(001)基板に面直磁場を印加すると磁気歪が生じることもわかった。結果、MgO基板上のFe原子のSTM分光磁気ヒステリシス曲線を計測することが極めて困難であることが判明した。 MgO膜は絶縁であるため、STM計測時に試料印加電圧2 V以上が必要である。しかし、トンネル電流を50 pAまで上げるとFe原子はMgO表面から吹き飛び、(おそらく)探針側に吸着することが判明した。電圧3 V, 10 pAのセットポイントでは、安定にSTM計測ができるが、このセットポイントでは、フェルミ準位近傍(0V)のトンネル電流値が電流ノイズ(0.5 pA)に埋もれてしまい計測できない。 MgO上のFe原子の磁気異方性を探るには、磁界を印加した際、トンネル電流中に生じる変化をとらえなくてはならない。我々が考えている計画は2つある。 (1)STM形状像を3 V, 10 pAセットポイントで計測しながら磁場を慎重に印可し、STM像中のFe原子の高さ変化から磁気情報を読み取る。ただし、探針にFe原子をピックアップしスピン偏極させなくてはならない。 (2)1個のFe原子では僅かに電流が増大するだけでFe原子は吹き飛ぶ。Fe原子を固定したい。フタロシアニンPc分子とFe原子をMgO表面に共蒸着する。分子-Fe原子間力を用いて、Fe原子をMgO基板上に固定したい。セットポイント3 V, 500 pAでもFe原子が安定であれば、Fe原子のSTM分光曲線計測が可能となる。印加磁場応答を丁寧に計測する。
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