2017 Fiscal Year Research-status Report
Photoelectron circular dichroism of molecular and cluster anions
Project/Area Number |
17K19098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中西 隆造 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (70447324)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 光電子イメージング / 負イオン光電子分光 / 円二色性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,超微量・高感度キラル計測の新手法として期待される光電子円二色性(PECD)とイオンビーム技術を組み合わせ,気相中に孤立した分子負イオンや分子集合体(クラスター)負イオンのキラリティを識別する実験手法を開発し,不斉反応の中間体のキラリティを検出すること,キラリティに対する分子間相互作用の影響を詳細に調べることを目指す.本年度は,(1)PECD測定装置の開発と(2)気相分子負イオンからのPECD観測に取り組んだ. (1)現有の光電子イメージング装置をベースに,PECD測定装置を新たに開発した.PECD測定は,左円偏光と右円偏光での光電子放出角度分布の違いを検出する手法である.励起光の円偏光状態の自動切り替え,およびそれに同期した光電子画像取得システムを構築した.また,安定した高強度イオンビームを得るために,イオン源を改良し,電子衝撃イオン化の条件を最適化した. (2)キラルアルコール(2ブタノール,グリシドール)の解離性電子付着によって生成するアルコキシド負イオンを対象にPECD測定を試みた.一方のエナンチオマーを前駆体とした負イオン種の測定では,励起光の進行方向に対する光電子の前方・後方散乱強度が非対称になることが観測された.得られたCD信号は全電子散乱強度の2-4%程度であり,気相負イオンに対しても中性分子と同程度のオーダーでPECDの観測が可能であることが分かった.もう一方のエナンチオマーではこのCD信号の非対称性が反転し,気相負イオン種のキラリティが識別できることが確認できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の研究計画に沿って, PECD測定のための装置開発,負イオンPECDの検証実験を行い,気相分子負イオンからのPECDを観測することができた.また,アルコキシド負イオンのアルキル基が長くなるにしたがってCD信号強度の減少したことから,PECDが脱離電子近傍のキラル環境の変化に敏感に依存することが示唆された.以上のことから,本研究は概ね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
対象とする気相負イオンをクラスター系にも拡張し,キラル負イオンPECD に対するアキラル分子溶媒和,キラル分子溶媒和の効果を調べることで,負イオンPECD測定の汎用性を実証する.また,アキラルな負イオンと種々のキラル分子からなるクラスターのPECD 測定によって,クラスター全体のキラル環境にPECDが敏感か検証する.これらクラスター負イオンの測定では,従来以上に安定したPECD測定が必要となる.本年度に購入した光弾性変調器を測定系に導入し,左右円偏光における光電子画像の差分をリアルタイムで観測する,イオン強度やレーザー強度の経時変化の影響を受けない測定システムを構築する.
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Causes of Carryover |
予定していた光弾性変調器を利用した測定システムの準備が年度内に完了しなかったため,次年度使用額が生じた.次年度に当該システムの整備を進めるとともに,当初の計画に沿ってクラスター負イオンPECD測定および成果発表の経費として使用する.
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