2017 Fiscal Year Research-status Report
分子の状態がどこまで分かれば表面増強ラマンの増強機構を完全に理解できるのか?
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17K19100
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
木口 学 東京工業大学, 理学院, 教授 (70313020)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 表面増強ラマン散乱 / 単分子接合 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、再現性良く分子接合のラマン散乱と電流電圧特性を同時計測するために、分子接合の機械的安定性を向上させた。安定性に優れるmechanically controllable break junction(MCBJ)法を用いてナノギャップを作製した。MCBJとは3点曲げの要領で基板を押し曲げることで金属線を破断する手法である。MCBJ電極は微細加工技術を用いてナノサイズとすることで、単分子接合の安定性の飛躍的な向上に成功した。またMCBJ電極の絶縁層としてSi酸化膜を用い、妨害信号となる蛍光を低減するなどの独自の工夫を行った。並行して、分子接合作製部、光学計測部および電気計測部から構成される分子接合のラマン散乱と電流電圧特性を同時計測装置を構築した。作製したMCBJ電極と同時計測装置を用いて、1,4-アミノベンゼンチオール(ABT)の分子接合のラマン散乱と電流電圧特性を同時計測を行った。。多数の接合について電流―電圧特性(I-V)を計測した所、3つの状態(H, M, L)が優先的に形成されていることが明らかとなった。I-V特性を解析し、金属と分子の波動関数の重なり(Coupling)、電極と分子軌道のエネルギーの差、伝導度と3つの情報を得た。並行して理論計算を行い、coupling, エネルギー差、伝導度と3つのパラメータを実験値と比較することで、Hがbridgeサイト、Mがhollowサイト、Lがatopサイトに帰属された。さらにSERS強度とI-V特性の関係性を検討した所、ABT単分子が特定のBridgeサイトに吸着した時だけSERS信号がより大きく観測されることが明らかとなった。その結果、ABT単分子のMCBJ電極上の結合サイトを含む分子接合の構造同定と電子状態の決定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に作製したMCBJ電極と同時計測装置を用いて、1,4-アミノベンゼンチオールの分子接合のラマン散乱と電流電圧特性を同時計測を行った。同時計測をすることで初めて、1,4-アミノベンゼンチオールのMCBJ電極上の結合サイトを含む分子接合の構造同定と電子状態の決定に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に作製したMCBJ電極と同時計測装置を用いて、SERSにおける化学効果の解明に取り組む。化学効果は、光による金属の占有準位から分子の非占有軌道、あるいは分子の占有軌道から金属の非占有準位への光誘起電子移動に由来する。従って、金属と分子間の相互作用強度つまりCoupling 強度と化学効果による増強には相関関係があるはずである。実際に、一準位Andersonモデルに基づき計算をして頂いたが、Coupling 強度のべき乗でSERS強度が増加することが予想された。そこで、伝導度とラマン散乱の同時計測法により得られるCoupling 強度とSERS強度の相関から化学効果の定量的評価に挑戦する。SERS増強率から化学効果に由来する増強率を差し引き、また散乱スペクトルから求めた吸収確率を考慮することで、電場増強効果による増強率を決定する。並行して、トンネル電流から評価したギャップ間隔について電磁界解析(FDTD計算)を行うことで電場増強効果による増強率を評価する。実験的に得られた増強率と比較し、本解析法の妥当性をチェックする。
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Causes of Carryover |
分子接合の電流電圧特性の計測機構の構築に際し、計測方法の工夫により計測に必要なソフトウェアについて、当初計画よりも効率的に構築できた。このため、当初の計画で計上していた電流電圧特性の計測機構の構築に必要な経費を削減することができた。このために未使用額が生じた。未使用額は次年度の薬品や基板の購入に当てる。
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Research Products
(24 results)