2017 Fiscal Year Research-status Report
分光学的温度測定法による真空中液滴の蒸発冷却・凍結過程の研究
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17K19107
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 液滴 / 真空 / ラマン散乱 / 温度測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、液滴発生装置の改良に取り組んだ。試料液体を冷却して蒸気圧を下げると、液体の沸騰による気泡発生を抑制でき、真空中で安定かつ持続的な液滴発生が可能になると予想されるため、試料容器や液体供給チューブ、ノズルの冷却方法を工夫し、その効果を確認した。しかしながら、ノズルとチューブの接続部の僅かな隙間から流入する空気も、気泡発生の原因であることが新たにわかった。隙間を完全に塞ぐ、もしくは生じた気泡を除去する方法を、現在さらに検討している。 一方で、水液滴からのラマン散乱測定の予備実験を大気中で行った。測定では、100μm程度に集光したナノ秒パルスレーザー光(1~2 mJ)を、直径68μmの水液滴に照射した。レーザー光と直交する方向へのラマン散乱光をレンズで捕集し、ロングパスフィルターで励起光を除去した後に分光器に取り込んだ。励起レーザー光の波長を570から580 nmまで0.05 nm間隔で掃引してスペクトルを取得したところ、励起光が液滴表面で共振した際にラマン信号強度の増大が見られた。さらに、ラマン散乱スペクトル中のO-H伸縮振動バンドには一定の波長間隔で鋭いピークが現れ、表面共振増強されたラマン散乱光を確認した。ピーク間隔から求めた液滴の直径は、顕微鏡で撮影した液滴の画像を解析して得た直径とよく一致した。 なお、スペクトルの取得を1万回ほど繰り返すと、その間にノズルからの液滴射出速度が僅かに変化する現象が見られた。つまり、液滴とレーザーパルスとの間のタイミングが徐々にずれ、スポット径100μmのレーザー光が次第に液滴に当たらなくなった。この時、液滴の大きさにも僅かな変化が見られ、表面で共振増強されるラマン散乱光の波長も変化した。この原因解明も今後進めてゆく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
安定で持続的な真空中の液滴発生について、それを妨げる原因の一つには対策を施したが、新たな問題も見出され、今後の課題となった。一方で、ラマン散乱測定については、大気中での予備実験が計画よりも早く進展しており、全体としてはおおむね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
真空中のラマン散乱測定に向けて、まず、水液滴発生の一層の安定化を図る。そのために、特にノズル内部に生じた気泡の除去方法を検討する。また、液滴の射出速度が長時間の間に徐々に変化する現象についても、原因究明を進めて改良する。これら液滴発生の改良と並行して、真空中の液滴からの表面共振増強ラマン散乱光を測定する光学系の構築に取り組む。水液滴のラマン散乱スペクトルを得ることを目標とし、純水のバルク液体で得たラマン散乱スペクトルの温度依存性を参照データとして、蒸発冷却される液滴の温度測定に挑戦する。また、共振増強モードの解析から液滴サイズも同時に測定する。
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Causes of Carryover |
真空中での液滴発生を阻害する新たな要因が明らかとなったため、装置の改良費用として次年度に経費を繰り越した。
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