2017 Fiscal Year Research-status Report
リン単体を直接用いる含リン複素環化合物の遷移金属触媒合成
Project/Area Number |
17K19112
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
有澤 美枝子 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50302162)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
Keywords | リン単体 / 遷移金属触媒 / ポリリン化合物 / 含リン複素環化合物 / P-P結合切断 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン単体を直接利用する有機リン化合物の高効率合成法を開発する目的で、リン原子同士に挟まれたリン原子の反応性を知るために、ポリホスフィン P-P-P 結合の触媒的変換反応に着目した。今回ロジウム触媒存在下、ペンタフェニルシクロペンタホスフィン (PhP)5 のフェニルホスフィニル基をジスルフィド化合物 S-S 結合に挿入して、S-P(Ph)-S 結合を有する有機リン化合物を与える反応を開発した。ロジウム触媒は、(PhP)5 の2 つの P-P 結合を切断して、2 つの P-S 結合を形成する。これまでに、(PhP)5 から有機リン化合物を触媒的に合成した例は知られていない。本法は、ジセレニドや様々な環状ジスルフィド化合物に適用できた。加えて、ロジウム錯体による (PhP)5 の活性化様式を調べる目的で、嵩高いイソシアニドを添加して安定化した錯体を単離した。その結果、二つの PhP 基がロジウム金属上に配置したジフェニルジホスフェンロジウム錯体の生成を示唆する結果を得た。 加えて、テトラアルキルジホスフィンと複素環スルフィドを用いて、ジアルキル複素環ホスフィンの合成法を開発した。ジアルキル芳香族ホスフィン類は、医薬品の部分骨格や助燃剤等の機能性材料、配位子として利用されるが、芳香環を複素環に置換したジアルキルホスフィン化合物はほとんど合成例がない。ロジウム触媒を用いると、5員環および6員環の多様な複素環にジアルキルホスフィニル基を導入可能で、これまでに合成例のない新規ジアルキル複素環ホスフィン類を簡便に合成できた。本研究の過程で、複素環ホスフィンと複素環スルフィド間の変換はロジウム触媒条件下平衡であり、適切な条件を選択すると平衡制御して相互変換できることも示した。即ち、生じたジアルキル複素環ホスフィンにジスルフィドをロジウム触媒下反応させると、複素環スルフィドに変換できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ジアルキル複素環ホスフィン化合物の合成研究を通して、複素環-リン結合生成をロジウム触媒的に行えることを示した。この成果をもとに、本ロジウム触媒を用いる複素環交換反応を利用して、二つの異なる複素環 (HetAr と HetAr’) をヘテロ元素一原子 (X) で連結した非対称ビス複素環 HetAr-X-HetAr’ 化合物群の合成研究に展開できた。これまでに芳香環 Ar 基を有する Ar-X-Ar や HetAr-X-Ar 化合物の合成法は確立されているが、非対称ビス複素環 HetAr-X-HetAr’ 化合物群の合成例は、効率合成法がないために極めて少ない。本ロジウム触媒複素環交換反応を用いると、複素環芳香族エーテルと複素環ヘテロ元素アシル化合物から、非対称ビス複素環スルフィドやエーテルを簡便に合成できることが分かった。加えて、複素環芳香族エーテルとN-アシル複素環化合物を反応させると、ロジウム触媒的に C-N 結合型ビス複素環化合物を合成できた。これらのロジウム触媒法はいずれも5員環および6員環複素環などの幅広い基質に適用可能である。最近、置換シクロペンタホスフィンと二つの異なる複素環化合物を反応させると、非対称ビス複素環フェニルホスフィンを与えることを見出した。非対称ビス複素環ホスフィンの合成例はこれまでになく、医薬品としての利用や新しいキラルホスフィンとしての利用が期待できる。これに関連して、本研究で合成した非対称ビス複素環化合物の中から、認知機能改善薬の候補化合物を見出すことができ、現在構造展開研究を行っている。以上のように本研究では、有機リン化合物を触媒的に合成するための方法論を多様な有機ヘテロ元素化合物の合成法に適用できることを示し、当初の計画以上の成果をあげることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
ロジウム触媒が、ポリホスフィンの2箇所の P-P 結合を同時に切断して有機化合物中に挿入してヘテロ元素-P 結合や C-P 結合を生成できることを明らかにした。置換シクロペンタホスフィン、環状ジホスフェート類やトリホスフェート類を合成して、ロジウム触媒的に含リン複素環化合物を合成する触媒法を多数開発する予定である。予備的に、置換シクロペンタホスフィンとアルキンを反応させると、フェニルホスフィニル基が付加した環状リン化合物を与えることが分かったので、これを継続して検討する。 加えて、ポリホスフィンとロジウム錯体から生じる活性種ロジウムジホスフェートを別途合成する方法を確立できたので、本ロジウム活性種を用いて多様な不飽和有機化合物への付加や、有機ヘテロ元素化合物 C-X 結合との交換反応を検討して、多様な新しい含リン複素環化合物の合成を行う。 ポリホスフィンの検討をもとにして、有機官能基を持たないリン単体の P-P 結合を遷移金属触媒で活性化する反応条件を探索する。例えば、リン単体と高反応性の有機不飽和化合物としてベンザインとの反応を検討し、付加による芳香族ホスホール誘導体の合成を検討する。順次、出発物と生成物の熱力学的な安定性や反応性を考慮しながら、低反応性の有機不飽和化合物へ移行する方法で、リン単体を直接利用した有機リン化合物の触媒的合成法を達成する計画である。
|