2017 Fiscal Year Research-status Report
Control of handedness in absolute asymmetric synthesis
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17K19114
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 昌巳 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (00178576)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | キラル光 / 不斉制御 / 絶対不斉合成 / 結晶核 / ホモキラリティー / 結晶成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然界の高度なホモキラリティー発現にも関連し,アキラルな前駆体から光学的に純粋な化合物を創製する手法の開発は,多くの研究領域で注力されている。円偏光や磁場による不斉制御もその要因の1つと考えられている一方で,アキラルな物質が結晶を形成する際に不斉が発現する現象も原始地球におけるホモキラリティーの起源(延いては生命の起源)として有力視されている。結晶のキラリティーを用いて光学活性体を導く絶対不斉合成は,1970年に初めて固相光反応による物質変換が報告された。さらに申請者は,2000年には結晶のキラリティーを低温溶液中で記憶して不斉反応に用いる新しい不斉合成法を開発した。しかし,これらの反応はいずれも大量合成には対応できず,さらに,生成する光学活性化合物のキラリティー(+か-,または右か左)を制御できなかった。一方,円偏光をラセミ体の混合物に照射して鏡像体の片方をわずかに過剰に分解または生成する研究もなされているが,いずれも2%ee未満の光学純度にすぎない。 申請者は,結晶の不斉環境を利用した物質変換や動的光学分割に関して多くの成果を上げてきた。その知識力と技術力を活かし,本研究では,有機化合物が結晶化する際にキラリティーが自然発現する特異な現象を大きく飛躍発展させた前例のない不斉制御法の開発を目的とした。具体的には,アキラルな化合物へのキラルレーザー光(キラル渦光や円偏光)照射と動的結晶化の協働による新しい不斉発現・不斉制御・不斉増幅法を開発した。この現象は,①アキラルな化合物の反応により不斉中心を有する生成物が生じること,②キラル光によるキラルな結晶核形成,そして,③生成物のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が系内で協働することで達成できる絶対不斉合成・掌性制御法である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究による新しい絶対不斉合成の掌性制御法の開発は,上述の条件を満たす基質と反応の探索が最も重要であるが,初年度は,申請者が既に見出しているイソインドリノンの不斉発現と増幅現象の反応系を用いて,キラルレーザー光(キラル渦光や円偏光)による結晶化の不斉制御を検討した。生成物のラセミ化反応を伴う動的結晶化法は,僅かな不斉の偏りから系全体を完全に一方の鏡像異性体の結晶に変換(デラセミ化)させることができる。僅かな偏りを生じさせるために用いるのが2種類のキラル光である。1つのキラル光は,上述のように円偏光であり,1960年代から不斉合成に用いられているが2%ee未満の光学純度の不斉合成しか達成されていない。しかし,申請者らによる実績のある動的優先晶出と組み合わせることにより不斉を完全に制御できる可能性がある。さらに実現性の高い第2の手法が,光渦レーザーから発振されるキラル渦光を用いた前例のない不斉制御法である。キラル渦光は,円偏光により現れる螺旋性に加えて,波面の螺旋構造から現れる螺旋性を有しており,動力学的な作用を示す。螺旋性を持つ光(光渦レーザー)を金属や高分子に照射すると、光の螺旋性が転写されて螺旋状の新奇なナノ構造体ができることも報告されている。このキラル渦光を結晶成長に用いることで,成長する結晶のキラリティーを制御し,動的結晶化によるデラセミ化との協働により高い光学純度の不斉合成を検討した。 コングロメレートを形成する化合物の過飽和溶液にキラル渦レーザー光を照射したところ,渦の巻き方向により結晶のキラリティーに大きな差が出ることを初めて明らかにすることができた。多くの実験を繰り返し,実験事実の再現性検証を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
イソインドリノンの結晶化において,キラルレーザー渦光の照射により,生成する結晶のキラリティーを制御できる可能性を見出したことから,基質一般性,レーザー波長,渦の巻数の影響等の実験条件を種々変えて不斉発現現象を検討する。さらに,結晶化の不斉発現が結晶核の生成時に有効なのか,その後の結晶成長に影響を及ぼしているのかを明らかにする。また,過飽和溶液からの結晶成長の不斉制御以外にも,微結晶や結晶表面へのキラル渦照射による不斉発現を検討する。物理的なキラリティーを化学分子のキラリティーに転写する前例のない挑戦的な研究を推進する。
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Causes of Carryover |
29年度の申請額項目の中で,旅費の執行額がなかったが,これは,他の予算で執行したためである。物品費については,約35万の未使用額が生じ,最終的に431,213円を次年度予算に繰り越すこととした。29年度は複数のイソインドリノンについて,条件を変化させながら多くのレーザー光照射実験を行い,斬新な研究成果を得ることができた。研究を推進する中で,光学純度を測定するHPLC用の分析装置が故障したため,PDA検出器の新規購入が必要となった。また,基質の種類を限定したために物品費に残金が発生したが,30年度は,多くの種類の基質,結晶形や結晶面の選択制での一般性を検証するとともに,各種分析料,不斉増幅反応やレーザー光照射条件検討等に繰越額を充てる予定である。
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