2017 Fiscal Year Research-status Report
糖鎖プライマー法を基盤とするムコ多糖症診断プローブの創製
Project/Area Number |
17K19208
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
佐藤 智典 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00162454)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 糖鎖プライマー / グリコサミノグリカン / ムコ多糖症 / LC-MS / 糖鎖ライブラリー / 診断薬 / 新生児マススクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
ムコ多糖症(MPS)はムコ多糖の分解酵素が欠損してグリコサミノグリカン(GAG)が蓄積する先天性のライソゾーム病のひとつである。本課題では、MPSの早期診断を実現するために、新生児マススクリーニングで利用可能な診断プローブとしてGAG型の糖鎖ライブラリーを作製する。 糖鎖ライブラリーの作製には、糖鎖生合成経路の前駆体となる糖誘導体である糖鎖プライマーを利用した。GAGはプロテオグリカンの多糖部分であり、タンパク質中のセリン(Ser)残基にキシロース(Xyl)が結合することでGAG型の生合成が起きる。そこで、GAGの生合成の前駆体構造となる糖鎖プライマーとしてXylとSerが結合した糖アミノ酸にラウリン酸を結合したXyl-Ser-C12を設計した。Xyl-Ser-C12を、デルマタン硫酸を高発現している正常ヒト皮膚繊維芽細胞の細胞培養液中に添加し、48時間後に培養液を回収した。得られた糖鎖ライブラリーの構造はLC-MSにより解析した。まず、GAG型糖鎖ライブラリーの分析に適した固相抽出法とLC-MSの溶出条件を決定した。さらに、GAGの加水分解酵素であるコンドロイチナーゼABCで処理する事で、DS型の二糖構造の存在が確認できた。次に、正常ヒト皮膚繊維芽細胞から得られる糖鎖ライブラリーにおいて、硫酸化された二糖構造の収量を高めるために、DS型の硫酸基転移遺伝子USTを組み込んだレトロウイルスを作製して、USTを過剰発現させた細胞株を構築した。このようなUST過剰発現細胞株を用いて、糖鎖プライマー法によりDS型の糖鎖ライブラリーを作製したところ、硫酸化された二糖構造の合成量が向上した。さらに、糖鎖伸長生成物の配列を解析し、硫酸化されたGAG型のオリゴ糖が得られていることを確認し、診断基質として期待される配列を含んでいることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請書で提案していた研究は、概ね着手できている。特に、組み換え細胞を作製し、診断基質として期待されるグリコサミノグリカンを多く含む糖鎖ライブラリーが作製できるようになった事は大きな進歩である。LC-MSでの測定条件の検討には装置の故障なども重なり予想以上の時間を有した。しかしながら今後の測定に必要な条件検討は年度末までにほぼ終えることができている。現在では、新生児マススクリーニングへの活用を想定した、糖鎖ライブラリーと酵素との反応条件を決定するための実験に移行してきている。一方で、Gly-SerのSer残基にXylを結合させた糖鎖プライマーXyl-(Gly)-Ser-C12を用いる事で、GAG選択的な生合成がモニタリングでき、GAG の生合成にはXylのリン酸化が重要な役割を有することを見出した。そこで、GAGの生合成機構を解明するためのプローブとしても有用である事が示された。さらに、重水素化された糖鎖プライマーを用いる事で、細胞内での糖鎖伸長効率のLC-MSでの定量的な評価を行う事が可能となった。以上の成果から、ムコ多糖症の診断基質の開発において有効な情報が得られてきており、原著論文2報が出版され、当初に想定した以上の成果が得られた部分もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
組換え細胞を用いてDS型の糖鎖ライブラリーを用いて、ムコ多糖症と関係するGAG分解酵素(イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼなど)に対する基質特異性を検討する。この実験では、試験管中で糖鎖ライブラリーと上記のGAG分解酵素を混合したのちに、特徴的な二糖構造を有するオリゴ糖の分解を定量的に評価する。特に、酵素活性の至適条件とLCーMSでの解析条件が一致しない場合もあるので、その点を考慮した分析方法を検討する。これにより、糖鎖ライブラリーを用いたGAG分解酵素の反応を質量分析装置で定量する手法を構築する。本計画が順調に進行すれば、将来的には健常者の血液および患者のろ紙血を用いた検討を行う。そのために、本年度は血液サンプルでの酵素反応およびMSでの測定条件の検討を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
初年度に、糖鎖ライブラリーを大量に作製する予定であったが、LC-MSの故障などが重なったこともあり、測定の条件設定に予定以上の時間を要した。但し、年度末までには想定した条件設定を終えることができた。また、分析レベルの実験において定量解析手法の構築を優先した。以上のような理由により消耗品の購入計画を変更した。研究全体としては論文発表が前倒しで実施できたことで成果が見られており、2年間の計画全体の実施に関しては問題が生じていない。また、旅費においては、職務の関係で学会発表計画を変更したことから、残金が生じた。
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Research Products
(5 results)