アミノ酸配列に基づくポリケタイド系天然物の構造予測と物質生産

2017 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 17K19214
• Research Institution: Hokkaido University
• Principal Investigator: 南 篤志 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40507191)
• Project Period (FY): 2017-06-30 – 2020-03-31
• Keywords: 天然物 / 生合成 / 酵素

Outline of Annual Research Achievements

生合成遺伝子の異種発現による天然物生産が可能な時代が到来し、微生物分野では「培養」から「生合成マシナリーの人為的再構築」へのパラダイムシフトが起こりつつある。医薬品や化学ツールとしての天然物の重要性を考慮すると、「遺伝子情報に基づいた天然物の構造予測と生産」が実現すれば分野を横断するより大きな変化につながると考えられる。こうした背景下、本研究課題では、糸状菌由来の繰り返し型ポリケタイド合成酵素PKS(-NRPS)をモデルとしてアミノ酸配列から構造の新規性を予測できるか否かを検証する。具体的には、①バイオインフォマティクスを基盤としたポリケタイド系天然物生合成遺伝子の系統的な解析、②骨格構築酵素遺伝子の異種発現による機能解析を通して、提唱した仮説の妥当性を評価する。本年度は、主に①について検討した。
まず、提唱した仮説の妥当性を予備的に検証するため、公共データベースから糸状菌由来のPKS(-NRPS)を含む遺伝子クラスター（200種類程度）を取得し、各骨格構築酵素の系統樹解析を行った。次いで、骨格構築酵素遺伝子の周辺に位置する修飾酵素遺伝子を精査し、各修飾酵素遺伝子の機能と相同性を比較した。その結果、同一クレードに分類される骨格酵素遺伝子の周辺には互いに相同性の高い修飾酵素遺伝子が保存されていることがわかってきた。また、機能未知骨格構築酵素遺伝子の機能を明らかにするため、注目した骨格構築酵素遺伝子を麹菌発現用ベクターへとクローニングした。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

我々が機能解析に成功したPKS-NRPS（AsolS）の “アミノ酸配列”と“生成物の化学構造”との関連性について予備的に検証したところ、「骨格構築酵素遺伝子と修飾酵素遺伝子が共進化しているのではないか？」という仮説が浮かび上がってきた。同様の仮説は他で提唱されていないため、本研究における最初の課題は、提唱した仮説の妥当性をバイオインフォマティクス的手法により検証することにあった。そこで、骨格構築酵素遺伝子をクエリーとして200種類程度の推定生合成遺伝子クラスターを公共データベースから取得し、各骨格構築酵素のアミノ酸配列を系統樹解析に供した。次いで、骨格構築酵素遺伝子の周辺に位置している修飾酵素遺伝子の相同性を比較したところ、互いに相同性のある骨格構築酵素遺伝子の周辺には類似した修飾酵素遺伝子が存在していることがわかってきた。提唱した仮説と矛盾しない基礎データが得られつつあることから、２つ目の課題である骨格構築酵素の機能解析にもとりかかることにした。骨格構築酵素の機能解析にはその機能を補完するtrans-ERが必要不可欠であるため、両者をそれぞれ麹菌発現用ベクターへとクローニングした。以上の実験により、提唱した仮説を検証するために必要な基礎的データと骨格構築酵素の機能解析へ向けた実験材料の一部を得ることができた。これより、本研究は順調に進展しているものと判断した。

Strategy for Future Research Activity

提唱した仮説を実証するには、①骨格構築酵素を含む生合成遺伝子クラスターの網羅的なバイオインフォマティクス解析、②機能未知骨格構築酵素遺伝子の解析が必要不可欠である。①については、200種類の生合成遺伝子クラスターの予備的な解析により、提唱した仮説の妥当性を支持するような基礎データが得られつつある。次年度以降も解析を継続してデータベースの拡充に努める。また、同様の検討をlovastatinなどの骨格構築を担う高還元型PKS（HR-PKS）でも行い、仮説の一般性を検証する。ただし、データベースの基となった骨格構築酵素遺伝子の大部分は機能未知遺伝子であることから、仮説の検証には骨格構築酵素遺伝子の機能解析が必要となる。そこで、麹菌を宿主とした異種発現による骨格構築酵素遺伝子の機能解析も開始する。機能解析の対象としては機能既知骨格構築酵素と相同性の高い遺伝子と低い遺伝子に着目し、①骨格構築酵素遺伝子とその機能を補完するtrans-ER遺伝子を麹菌発現用ベクターへと連結して発現用プラスミドを構築する、②構築したプラスミドを用いた形質転換により取得した形質転換体を培養してその代謝産物の単離構造決定を行う。