2018 Fiscal Year Research-status Report
人工光受容体によるアブシジン酸シグナルの局所的且つ局時的制御
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17K19226
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
竹内 純 静岡大学, 農学部, 助教 (00776320)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 植物 / 有機化学 / 生理活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシジン酸(ABA)は受容体PYLと結合後,PYLの配座を不活性型(gate opened)から活性型(gate closed)に変化させる。活性型配座のPYLはABAシグナル伝達の負の制御因子PP2C(ホスファターゼ)と結合し,その酵素活性を阻害することで下流のシグナル伝達をONにする。本研究では,PYLの配座変化がABAシグナル伝達のOFF/ONと連動している点に着目し,光による立体構造の変化によってPYLの配座を活性型/不活性型にする化合物の設計・合成に取り組んでいる。本年度は,光照射によってPYLアゴニスト/アンタゴニスト活性の切り替えが可能かどうかを検討するために,6-amino-1-tetraloneを出発物として,8ステップ,総収率0.6%でtetralone-ABAにアゾベンゼンを混み込んだ化合物LIAP(Light-activated Agonist of PYL)/iLIAP(LIAPのantagonist型)を合成した。シロイヌナズナ種子発芽試験により活性を確認したところ,単独処理では弱いABA様活性(発芽阻害活性)を示し,ABAとの共処理ではABA拮抗活性を示した。Z体がPYLアゴニスト,E体がアンタゴニストとして機能した結果,このような生物活性を示したと予測しているが,今後in vitro試験により各異性体の活性を確認する必要がある。また,光によるE→Z異性化およびZ体の安定性(熱によるE体への異性化)について調べたところ,DMSO溶液中では365 nmの光を100分照射すると90%以上がZ体となり,Z体は暗所下で徐々にE体に戻っていくものの,100時間の時点では約50%がZ型であることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既知のPYLアゴニストであるtetralone-ABAにアゾベンゼンを導入したLIAP/iLIAPの合成は達成したものの,in vitro試験における活性確認には至らなかった。E/Z混合物(E/Z=8:2)の状態でシロイヌナズナ種子発芽試験に供したところ,ABAとの共処理においてABA拮抗活性を示したことから,E体がPYLアンタゴニストとして機能することは間違いないと思われる。一方,Z体がPYLアゴニストとして機能するかどうかを現時点で判断することは難しい。発芽試験において,LIAP/iLIAP(E/Z混合物)は単独処理で弱いABA様活性を示したものの,その活性が本当にZ体に由来するものであることを検証する必要がある。そこで今後,光照射によってZ体として後,それを用いてin vitro試験を行う。In vitro試験に用いるPYL受容体(PYR1とPYL5)およびPP2C(HAB1)の異種発現系は既に構築出来ていることから,次年度は問題なく遂行できると考えている。 一方,LIAP/iLIAPを合成する際に,tetralone-ABAを母骨格とした構造類縁体を数種類合成し,PYLアンタゴニストの構造活性相関を追求した。この研究成果をまとめて,第53回植物化学調節学会で発表した。以上の進捗状況より統合的に判断して,研究はやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度実施できなかったin vitro phosphatase assayを行い,LIAP/iLIAPのPYLに対するアゴニスト/アンタゴニスト活性を評価する。Z体(LIAP)に関しては,上記のように,365 nmの光照射によりE→Z異性化を行うことで調製する。 分子設計通りZ体がPYLアゴニスト,E体がPYLアンタゴニストとして機能することが確認できた場合には,LIAP/iLIAPの側鎖カルボキシ基をアセトアルデヒドに置換したLICAP(LIght-activated Covalently-linked Agonist of PYL)/iLICAP(LICAPのantagonist型)を合成する。LICAP/iLICAPはPYLのリガンド結合ポケット奥に存在するLys残基側鎖とSciff塩基を介して共有結合可能な化合物である。PYLに共有結合したリガンドは代謝を受けないため,効果の減衰も起こりにくくなる。なお,アルデヒド基は反応性が高いため,これを光分解性保護基で保護してケージド化(caged inactive LICAP: c-iLICAP)し,光照射した部位の受容体近傍でのみアルデヒド基を露出させることで,局所的且つ局時的なPYLの光受容体化を行うことが出来ると考えている。 In vitro試験によりLICAP/iLICAPがPYLと共有結合するかどうかを調べる。活性の濃度依存性からPYLと共有結合している可能性が高いと考えられた場合には,トリプシン消化後にLCMS/MS分析を行って,ラベル化の有無とラベル化位置を明らかにする。共有結合の形成が確認されなかった場合は,設計を見直し,アルデヒド基の導入位置を変えたLICAP/iLICAPを合成し,同様の実験を行う。
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