2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K19229
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 光周性花成 / 低分子化合物 / 遺伝子発現解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究により、我々の発見したシロイヌナズナの花成誘導化合物は、光周性経路を介して花成を誘導することが判明した。本年度は、この光周性経路でのこの化合物の作用機序をより深く理解することを目的とし、大きく分けて3つの実験を行った。(1) 光周性経路に関わる遺伝子のいくつかの変異体に、この化合物を処理し、光周性経路が活性化するかを判別する。(2) 化合物処理後の遺伝子発現変化を俯瞰することで、化合物の作用機序を推測する。(3) 化合物の利用の普遍性を確かめるために、光周性花成の基盤となる生物時計システムの進化的考察を行った。 (1) の研究では、光周性花成が亢進もしくは減弱しているシロイヌナズナの変異体に、この化合物を処理し、翌日に花成ホルモンをコードするFT遺伝子のmRNAの蓄積量を逆転写定量PCRで解析した。光周性花成が亢進した株は野生型と比較してFT遺伝子の発現が上昇しているが、化合物処理によってさらにFT遺伝子の発現量が上昇した。また光周性花成経路が減弱している株では、この化合物によるFT遺伝子の発現上昇は認められなかった。花成経路亢進変異体の原因遺伝子は、この化合物の作用機序の経路で働くのではなく、花成経路減弱変異体の原因遺伝子がこの化合物の作用機序で重要な役割をもつことが明確になった。 (2)の研究では、比較的短時間(3時間)の化合物処理によって、発現変化する遺伝子群を明らかにすることで、化合物の作用機序を推測することを目指した。しかし3時間の処理では、調べた限りの花成経路遺伝子の発現変化が認められなかった。処理濃度を、限界まで濃くしたが、その条件でも遺伝子発現の変化を捉えることができなかった。 (3)の研究では、複数植物の遺伝子発現レガシーデータを比較解析することで、時計に関わる遺伝子発現ネットワークの普遍性と多様性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
化合物の標的にむけたプローブ作成が、研究協力者との共同研究によって、順調に推進している。短時間処理によって発現変化する遺伝子の同定には至らなかったが、光周性花成経路の変異体に化合物を処理し、花成ホルモン遺伝子の誘導効果を解析することで、化合物の作用機序に関わる遺伝子群がより明確になった。 さらに当初は予定していなかったものの、この化合物の将来的な応用展開を見据え、光周性花成経路での時間情報を生み出す生物時計システムの転写ネットワークの普遍性を考察した。日中に発現するシロイヌナズナ時計関連転写因子PRR5の標的遺伝子群は、明け方から午前中に発現することが分かっていた。シロイヌナズナのPRR5の標的遺伝子群と相同性の高い遺伝子群をイネとポプラから抽出した。これらのイネとポプラの遺伝子群の発現を、遺伝子発現レガシーデータで解析すると、明け方から午前中に発現するものが濃縮されていた。この遺伝子群の中には、光周性花成経路で機能する転写因子をコードするものも含めれていた。この事実は、シロイヌナズナの光周性花成経路および時計を標的とした化合物が、他の植物種の相同システムを標的とする可能性を示唆している。 またこの化合物ではない、他の生物活性化合物の標的同定に成功した。この実験によって、標的同定のためのバッファー条件検討、MS出力データの信頼性の担保など、の基盤的知見が蓄積してきた。この研究成果を、本研究の化合物の標的同定にも応用する。
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Strategy for Future Research Activity |
化合物の作用機序の解明に向けて、化合物の短時間処理による遺伝子発現変化の解析を条件の幅を振りながら、再度検討する。昨年度までは、濃度のパラメーターを幅広く検討するために、化合物溶液を植物を滴下する処理を中心に行ってきた。しかし、化合物の効果が認められないため、化合物がよりよく効くと考えられる、化合物水溶液中に植物を沈めて、脱気するなどの処理条件を検討する。また光周性花成が亢進している株は、化合物によるFT遺伝子の発現上昇がより顕著になる。これはこの株が化合物の感受性が高まったとも解釈できる。そこで、この株に化合物処理を短時間行い、変化する遺伝子を抽出することを解析する。 化合物プローブを使い、化合物の直接的な標的生体分子の同定を目指す。化合物の活性を損なわない構造アナログをアガロースビーズに共有結合させ、このビーズに特異的に相互作用するシロイヌナズナ由来タンパク質を取得し、そのペプチド配列をLC-MS/MS解析によって同定する。得られたタンパク質をコードする遺伝子群をRNA干渉によってノックダウンさせる、あるいはゲノム編集によって破壊し、それらの株の化合物感受性を解析する。生物学的な標的(単なる物理的な標的ではない)が欠損した株では、化合物の感受性は極度に低下、もしくは完全に喪失するはずであり、この形質をもって、化合物の標的として判定する。 またこの化合物の利用の汎用性を実証するために、シロイヌナズナ以外の植物での化合物の効果を検討する。
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Causes of Carryover |
(2)の研究では、比較的短時間(3時間)の化合物処理によって、発現変化する遺伝子群を明らかにすることで、化合物の作用機序を推測することを目指した。しかし3時間の処理では、調べた限りの花成経路遺伝子の発現変化が認められなかった。処理濃度を、限界まで濃くしたが、その条件でも遺伝子発現の変化を捉えることができなかった。一方で、(3)の研究では、複数植物の遺伝子発現レガシーデータを比較解析することで、時計に関わる遺伝子発現ネットワークの普遍性と多様性を明らかにした。(3)の研究は、予算が少なくても遂行できた研究であり、(2)の研究は途中段階で当初の予定していた実験の実施について再考を促されたため、本年度では条件検討の探索を中心に進め、次年度に網羅的な遺伝子発現解析を行う予定であり、その予算を次年度に計上したため。
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Research Products
(6 results)