2017 Fiscal Year Research-status Report
二次代謝ペプチド化合物の新規創製を志向した放線菌のtRNAエンジニアリング
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17K19243
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
濱野 吉十 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (50372834)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | tRNA / ペプチド合成酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
tRNAは、タンパク質翻訳システムにおける重要な生体分子であるが、一部の微生物は、タンパク質翻訳システムからaa-tRNAをハイジャックし、抗生物質などの二次代謝産物を生合成することが認められた。最近我々も、Streptomyces放線菌がtRNA依存的なペプチド合成酵素によりストレプトスリシン類縁抗生物質BD-12を生合成していることを見出している。興味深いことに、微生物ゲノムマイニングによって見出した本酵素のホモログ(Sba18)はin vitroにおいて、放線菌だけでなくE. coli由来のaa-tRNAを利用し新規化合物を生産することを明らかにした。E. coli由来のaa-tRNAを放線菌で発現させることができれば、新規ペプチド化合物をin vivoで得ることが可能になるが、二次代謝の物質生産を目的としたtRNAエンジニアリングは前例がなく、極めてチャレンジングな試みと言える。本研究では、我々が見出したtRNA依存性ペプチド合成酵素をモデルに、放線菌におけるtRNAエンジニアリングの基礎を構築し、二次代謝生合成工学の新たな道を切り拓くものである。 H29年度は、Sba18の基質特異性について詳細に解析した。放線菌由来のaa-tRNAにおいては、Gly-tRNAに高い基質特異性を示した。興味深いことに、大腸菌由来のaa-tRNAを用いた反応においては、Gly-tRNAだけでなく、Ala-tRNA、Ser-tRNAを基質として認識し、alanine、serineを側鎖に有する新規ST類縁化合物、alanylthricin、serylthricinを生成した。この結果から、Sba18はaa-tRNA上のアミノ酸だけでなく、tRNA分子の塩基配列や化学修飾も認識していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Sba18の基質特異性について詳細に解析したところ、放線菌由来のaa-tRNAにおいては、Gly-tRNAに高い基質特異性を示すことを明らかにした。興味深いことに、大腸菌由来のaa-tRNAを用いた酵素反応においては、Gly-tRNAだけでなく、Ala-tRNA、Ser-tRNAを基質として認識し、alanine、serineを側鎖に有する新規ST類縁化合物、alanylthricin、serylthricinを生成した。この結果から、Sba18はaa-tRNA上のアミノ酸だけでなく、tRNA分子の塩基配列や化学修飾も認識していることが示唆された。そこで、Sba18のtRNA分子に対する基質認識機構の解明およびtRNA工学による新規類縁化合物の酵素合成を試みた。 大腸菌は、3種類のGly用tRNA遺伝子と2種類のAla用tRNA遺伝子を有し、放線菌S. lividansは、Gly用tRNA遺伝子を4種類有している。Sba18がこれらのうち、どのtRNAを基質として認識するか検証するために、in vitro転写反応にて各tRNA分子を合成し、aminoacyl-tRNA synthaseを用いてaminoacyl化後、これらを基質としたSba18の酵素反応を行った。その結果、大腸菌由来5種類のaminoacyl-tRNAaa分子については、全てがSba18の基質として認識された。放線菌由来4種類のGly用tRNAについては、2種類のtRNA分子が基質として認識されたことから、Sba18がtRNA分子について広い基質特異性を示すことが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
in vitroの解析において、Sba18は大腸菌由来のtRNA分子を基質としてストレプトスリシン類縁化合物を生産した。次に、aminoacyl基に対する基質特異性を調べるために、Sba18の本来の基質と考えられるGly用tRNAに多様なアミノ酸(Ala、Ser、Lysなど)をaminoacyl化し、Sba18の基質として利用できるか検証する。通常、tRNA のaminoacyl化はaminoacyl-tRNA synthaseを用いて行われるが、本酵素は基質特異性が厳密であるためGly用tRNAに多様なアミノ酸をaminoacyl化することはできない。他方、人工RNA触媒として知られるflexizymeは、tRNA分子に多様なアミノ酸をaminoacyl化できる。そこで、本実験においては、flexizyme用いてSba18の基質を調製し詳細な基質特異性を検証する。 さらに、E. coliなど様々な微生物由来のtRNAを発現するStreptomyces放線菌を構築し、「各種tRNA依存性ペプチド合成酵素の遺伝子」と「糖中間体の生合成遺伝子」を共発現させ、新規化合物をin vivoで創製できるか検証する。成熟tRNAの発現が必要な場合は、tRNA化学修飾酵素遺伝子を含めたtRNAエンジニアリングにチャレンジする。
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Causes of Carryover |
当初の予定より研究が順調に進展したため、消耗品などの物品費を節約できた。H30年度は節約した消耗品費を有効活用し、微生物ゲノムマイニング実験をさらに拡充して新規tRNA依存性ペプチド合成酵素を取得する。また、場合によっては微生物ゲノムマイニングのためのゲノムシーケンスを外部委託で行う。
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