2017 Fiscal Year Research-status Report
ラン科植物とラン菌根菌の共生関係に関わる分子メカニズムの解明
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17K19253
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
志村 華子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (20507230)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | マイコウイルス / 菌根菌 / ラン |
Outline of Annual Research Achievements |
レブンアツモリソウや他のラン科植物から分離した菌株について、液体培養を行って菌糸を増殖させた。マイコウイルスの多くはdsRNAゲノムをもつウイルスであることから、菌糸から全核酸を抽出後、dsRNAを精製した。電気泳動によりバンドパターンを比較したところ、菌株によって様々なバンドパターンを示すことを確認できた。これまでにレブンアツモリソウ共生菌では数種類のpartitivirusが検出されていたが、これらから特異的プライマーを作成し、様々な菌株において同じpartitivirusが検出されるのかをRT-PCRにより調べた。その結果、RNAseqで検出された一部のウイルス配列は確かにRT-PCRでも検出することができ、また、レブンアツモリソウ共生菌でのみ検出されるpartitivirusもあれば、複数のラン菌根菌で検出されるpartitivirusもあることが分かった。 これまでに行ったランと菌根菌に感染するウイルスの網羅的解析では、無菌培養で成長したランにもpartitivirus様配列が検出されることが示唆されていた。そこで、無菌培養由来のレブンアツモリソウを新しく用意し、PCRでも実際にウイルス配列が検出されるかを試みた。しかし、通常のRT-PCRでは検出されなかった。一般に植物細胞内のpartitivirusの複製量は菌に比べて非常に少ないとされていることから、抽出核酸内のRNAを増幅する過程を加えたところ、無菌培養由来のランからも微量のウイルス配列を増幅できる可能性が示唆された。また、このpartitivirus配列は無菌培養のランでは非常に量が少ない一方、野外から採取したランの根、すなわち菌根を形成している状態ではウイルス量が多い場合があることがあった。今後は試験管内培養を利用して、菌根形成にともない内生ウイルス量に変化があるのか検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウイルスメタゲノム解析では網羅的解析によって様々なウイルスが検出された後に、PCRによっても再度感染確認をすることが求められる。また、共生関係のように植物と菌との相互作用がある材料の場合、ウイルスの宿主となる植物や菌の純粋培養由来の材料を用いた解析も必要となってくる。これまでに、RNAseqを利用してレブンアツモリソウとその菌根菌に感染するウイルスの網羅的解析を行って数多くのウイルスが検出されていたが、今回、RNAseqで検出されたウイルスが現在も純粋培養で維持する数種類の菌株に感染していることをRT-PCRによって確認することができた。また、レブンアツモリソウに最も共生発芽能がある菌株にのみ特異的に感染しているpartitivirusがあることが分かった。今回、無菌培養由来の材料を用意して、ランに元々いるウイルスの検出を検討したが、複製量が少ないとされるpartitivirusを通常の方法では検出することはできなかった。しかし、様々なPCR用酵素やテンプレート量を増やす過程を加えることで、微量なウイルス配列でも検出できる可能性を示すことができた。また、無菌状態すなわち共生関係が成立していない状態のランでは非常に複製量が少なかったウイルスが、共生が成立している状態のランでは多く複製していることが分かり、共生関係と内在ウイルスの関連も示唆された。これらの結果から、現在のまでの研究はおおむね順調に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
系統解析において、無菌培養由来のレブンアツモリソウから検出されたPartitivirusは、共生菌や他のラン菌根菌で検出されたPartitivirusと同一クレードを形成したが、塩基配列的には同じウイルスではなかった。このウイルスがランでのみ検出されるものなのか、無菌培養由来の個体をさらに解析するとともに、まだ調べていないラン菌根菌についてもウイルス感染の有無を調べる。また、共生発芽試験において、同じ菌株を用いた場合でも共生発芽能に違いが生じるものがみられた。このような菌は継代培養中に感染ウイルスの変異が生じた可能性が考えられることから、菌糸の大量培養を行ってdsRNAやウイルスに違いがあるのか調べる。この際、場合によってはRNAseqを利用することも検討する。また、菌のプロトプラスト化や低温処理などによるdsRNA欠失変異株の作出についても検討し、変異株が得られた場合には共生発芽試験を行い、共生発芽能への影響を調べる。
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Causes of Carryover |
次世代シークエンス解析を外注して、菌根菌に感染するウイルスの網羅的解析をする予定であったが、菌糸材料の用意に予定より時間を要した。不十分な材料で29年度中に解析してしまうよりは、十分なサンプルで解析したほうが効率的であると考え、次世代シークエンス解析を次年度に行えるよう必要な解析費用を30年度に残すことにしたため。
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