2017 Fiscal Year Research-status Report
植物免疫応答解析における葉面熱流変動測定法の確立と利用
Project/Area Number |
17K19260
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐々木 信光 東京農工大学, 学術研究支援総合センター, 准教授 (70431971)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 熱流 / 植物免疫 / 過敏感反応 / 植物葉 / タバコモザイクウイルス / 青枯れ病菌 / 遺伝子発現 / 温湿度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,外的刺激に応答する生理状態をより正確に把握する非破壊的方法として,世界初の試みである植物葉面における熱流測定法を確立し,植物免疫応答(過敏感反応)の進行過程において生じる熱流変動パターンを詳細に調べること,さらに、熱流変動パターンの変化を過敏感反応の進行段階や進行度合いの判断指標として活用できるかどうか、また植物免疫応答研究における新規解析法として有効かどうかについて調査および評価を行うことである.平成29年度では,まず,タバコ葉面での熱流測定を安定的に行うため、適度な長さの熱流センサを選び,専用の熱伝導性両面テープを利用することで葉面からセンサが剥がれないようにした。熱流測定専用の開閉式アクリルフードを作製し,気流や温湿度の変化による影響を最小限に抑える環境条件を検討した.熱電対(温度)センサも内蔵した最新の熱流センサを用いることによって葉面の温度も同時に測定できるようにした.アクリルフード内にも温湿度センサを設置し,測定環境中の温湿度の変化をモニタリングして,葉面の温湿度の変化と比較できるようにした.タバコモザイクウイルスの細胞死誘導因子(エリシター)をタバコ葉に一過的に発現させる方法(アグロバクテリウム浸潤法)を用いて植物免疫応答(過敏感応答)を誘導し,熱流の変化を記録した.細胞死を誘導しない対照区比較することにより,細胞死を誘導する前兆を示すような変化の違いが無いか検討した.上記のように熱流と温湿度の測定環境を整備すると同時に測定対象組織の解析方法を検討した.液体窒素を用いて,解析対象の組織と両面テープを分離した後に全RNAを抽出できること,およびその全RNA試料を使ってリアルタイムRT-PCRによる遺伝子解析ができることを確認した.また,電気伝導率計を用いてタバコ切片のイオン流出量を測定できることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
熱電対(温度)センサを内蔵した最新タイプの熱流センサ(特注品)を購入することにしたこと,植物育成室にフィットする開閉式アクリルフードを作製・修正する必要があったことから条件検討を含めた葉面の熱流と温度測定の開始が予定よりも若干ずれ込み9月以降となってしまった.タバコにおいて過敏感反応(病原認識に対する細胞死)を誘導する方法として,当初はウイルスや細菌といった病原体を利用したが誘導の速度や度合いのバラツキがあり,詳細な条件検討に向かないことが分かった.そこで,アグロバクテリウム浸潤法によるウイルスエリシターの一過的発現が比較的安定的に細胞死を誘導できることから,当該法を使って熱流測定の条件を検討した.両面テープを貼るタイミングも検討し,浸潤から1時間程度の間隔をおくことにした.細胞死誘導処理後にアクリルフード内で植物を育てることで,熱流測定における風の影響を大きく抑えることができるようになった.また,アクリルフードの隙間からのエアコン風の入り込みや周辺の電灯から発生する熱によっても,アクリルフード内の熱流に影響を与えることが分かり,アクリルフードの密閉度を高めたり,近くの電灯からの熱を遮断したりするといった実験環境の整備にかなりの時間を割く必要があった.また,解析対象の葉の向きを水平にした方がよいこと,センサを両面から挟んで計測する方がよいことも分かってきた.さらに,遺伝子発現解析を行うにあたり,熱流センサを取り外した後,液体窒素を用いて組織と両面テープを分離し,組織から全RNAを抽出してリアルタイムRT-PCRができるように抽出方法を確立することができた.これまでの実験から,細胞死誘導の有無によって熱流の変動パターンに違いが生じることを示唆するデータは得られており,熱流変動パターンが変化するタイミングで組織を回収し,細胞死誘導に関する遺伝子発現解析等を行う段階にきている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,過敏感反応に特有の熱流変動を指標とし,過敏感反応に関わる形態観察および生理学的・遺伝子発現解析を行う.熱流変動データを蓄積しつつ,過敏感反応で生じる特有の熱流変動パターンに変化が生じたタイミングに着目して,以下の3種類の実験を行う.葉組織は,熱流センサを取り外した後に液体窒素で凍結・磨砕することで粘着テープと分離する.(1)形態観察:過敏感反応の進行にともない葉の組織は黄化し始め,最終的には黒褐色化あるいは白化に至ることから,それらの形態的な変化を画像に記録する.(2)生理学的解析:過敏感反応の進行度合いを推定する指標として利用されている,イオンの流出や活性酸素種(ROS)の産生を計測する.熱流変動パターンに変化が生じたタイミングで植物組織を採取し,イオン流出については電気伝導率計を利用して電気伝導率の計測を行い,ROSについてはROS検出試薬(L-012等)を用いてROS産生を定量化する.(3)遺伝子発現解析:熱流変動パターンに変化が生じたタイミングにおける植物組織を採取し,過敏感反応特有のマーカー遺伝子に関してqRT-PCR法を用いた遺伝子発現解析を行う.さらに,熱流変動の周期性が最初に変化したタイミングに関しては,次世代シーケンサーを用いたゲノムワイドでの遺伝子発現解析(受託解析)を行い,過敏感反応及び熱流の初期変化に関係する遺伝子群の推定に寄与する情報を収集する.
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