2017 Fiscal Year Research-status Report
RIイメージングによる植物―病原糸状菌における物質動態の解明
Project/Area Number |
17K19267
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉田 健太郎 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (40570750)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 晴彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (10435612)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | RIイメージング / 物質動態 / イネ / コムギ / うどんこ病 / いもち病 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射性同位体(RI)イメージング技術を用いた植物病原糸状菌と宿主植物の相互作用における物質動態を明らかにできる系を、イネいもち病菌とコムギうどんこ病菌をモデルに構築し、(1)植物から病原糸状菌への物質動態、(2)病原糸状菌から植物への物質動態を明らかにすることを目的である。平成29年度においては、植物から病原糸状菌への物質動態について検証した。コムギうどんこ病菌をモデルにした系においては、炭素の放射性同位体14Cでラベルされた二酸化炭素を充填した密閉空間に、コムギうどんこ病菌に感染させたコムギを設置し、光合成による同化産物がコムギうどんこ病菌に取り込まれるかを確認する実験を実施した。対照実験として、光合成がおきない暗環境下でも実施した。二酸化炭素の添加は、コムギうどんこ病菌の分生胞子が形成される前に行った。分生胞子が形成された添加後、分生胞子を回収し、分生胞子と感染葉のオートラジオグラフィによる可視化を行った。この結果、同化産物がコムギうどんこ病菌に取り込まれ、分生胞子に蓄積することが確かめられた。暗環境下でも放射線が検出されたが、明環境下に比べて弱かった。また、感染葉においても、コムギ葉よりうどんこ病菌の菌糸に強いシグナルが観察された。よって、RIイメージングによって、うどんこ病菌がコムギ葉から多くの同化産物を奪っていることを可視化することができた。 pi21遺伝子は、多様なレースがあるいもち病に対して、ブロードに抵抗性を示す抵抗性遺伝子である。この抵抗性のメカニズムを調べるために、pi21抵抗性の有無の植物に対しいもち病を接種して、放射性同位元素用いた植物の取り込み実験を行った。その結果、炭素の放射性同位体を用いた実験では、抵抗性の有無による移行の差は見られなかった。一方、放射性同位体の窒素を用いた実験では、罹病性と抵抗性で著しく葉の移行活性に差があることが観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
同化産物が、コムギ葉からコムギうどんこ病菌に移行し、最終的に分生胞子に蓄積することが確認できた。コムギうどんこ病菌をモデルにした系においては、植物から病原糸状菌への物質動態を明らかにするという目的を達成している。しかし、RIイメージング実験において、サンプル間で、放射線量のばらつきが大きいという問題や、想定していたよりコムギうどんこ病菌の分生胞子形成がゆっくりであり、分生胞子回収時間が遅れるといった問題があった。その原因は、うどんこ病菌を均一に接種できていなかったことや、水耕栽培と密閉空間による湿度の上昇にある。より質の高いデータを得るためには、これらの問題を解決する必要がある。また、感染葉においても、コムギ葉よりうどんこ病菌の菌糸に強いシグナルが観察されたので、分生胞子を作る前から形成するまでの物質動態をRIイメージングができる可能性が示唆された。区分をやや遅れているとしたのは、より挑戦的であるコムギうどんこ病菌からコムギ葉への物質移行を確かめる実験を実施できなかったこと、そして、かなり難度の高い3次元イメージングに挑戦できなかったからである。分生胞子への同化産物の移行は、確かめられたので、コムギうどんこ病菌からコムギ葉への物質移行を確かめる実験は、平成30年度の前半に結果を出せる見込みはある。一方、3次元イメージングについては、手探りの状態である。 pi21抵抗性の有無の植物に対しいもち病を接種して、炭素の放射性同位元素用いた植物の取り込み実験を行ったが、抵抗性の有無による移行の差は見られなかった。一方、放射性同位体の窒素を用いた実験では罹病性品種でその移行活性が弱く、抵抗性品種で著しく移行することが明らかになった。いもち病は窒素栄養を多量に与えると、非常に罹患しやすくなる性質を持つ。本結果は、いもち病の抵抗性と可視化した窒素栄養の動態を結びつけた重要な発見となった。
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Strategy for Future Research Activity |
植物から病原糸状菌への物質動態を確かめられたので、病原糸状菌から植物への物質動態の検証実験を実施する。コムギうどんこ病菌からコムギ葉の物質移行の確認するために、14Cを含む分生胞子をコムギ個体の葉に接種し、植物体内への14C移行を確かめる。 まず、オートラジオグラフィではなく、液体シンチレーターで調べる。液体シンチレーターでの実験の可否によって、以下の実験を行う。(1) コムギうどんこ病菌からコムギ葉の物質移行の時間的動態を捉える。感染段階における宿主植物体内への14Cの分布を可視化する。 (2) コムギうどんこ病菌からコムギ葉への物質が、長距離移動するのかを確かめる。(3) 感染組織から植物体の他組織の物質移行の有無を、14Cのオートラジオグラフによって、どの組織まで物質が移行するのかを明らかにする。そして、3次元イメージングに挑戦する。14Cを取り込ませた感染葉から連続凍結切片を得る。 そして、凍結切片に含まれる14Cの分布を、イメージングプレートを感光体とするオートラジオグラフィで可視化する。 得られた連続した2次元断面オートラジオグラフを統合することによって3次元分布を得る。 放射性同位体の窒素を用いた実験では罹病性品種でその移行活性が弱く、抵抗性品種で著しく移行することが明らかになった。しかしながら、実験に供試したサンプルの不足や、いもち病を接種してからの時間など多くの実験的要因を残している。今後、これらの要因を整理しながら実験結果の再現性を確認し、放射性同位体の窒素を吸収させて植物の取り込みが如何に変化するかを調べていく予定である。また、いもち病斑のみを切り取ったサンプルを用いて、非放射性元素での金属含量の測定を行い、局所的な金属イオンの変化を調べ放射性実験の補助的データとする。
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