2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19283
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
堀川 祥生 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (90637711)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船田 良 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20192734)
梶田 真也 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40323753)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | セルロース / ヘミセルロース / リグニン / ペクチン / 細胞壁 / 免疫染色法 / 赤外分光法 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
木質バイオマスから構成成分の効率的な分離やエタノールを代表とする液体燃料の生産を目的とした高分子の可溶化を促進するためには、バイオマスの実体である細胞壁の形態形成ならびに構造的な理解が必要不可欠である。木質細胞壁は、まずセルロースが合成され、そこにヘミセルロースと呼ばれる非セルロース多糖が堆積し、それらを足場としてリグニンが重合して完成する。樹木はこれら3成分からなる細胞壁を容易く大量に生産できるが、その生合成メカニズムは未解明な点が多いため、我々は天然合成された産物を資源として利用しているのが現状である。そこで木質細胞壁を構造的に理解し、将来的には用途に応じたデザイニング手法を確立する取り掛かりとして、新規且つ独創的なアプローチで木質細胞壁を人工的に合成する基盤技術の創出を目指した。 29年度は非セルロース多糖を纏ったミクロフィブリル分散液の調製に取り組んだ。試料はスギから誘導したカルスを用いた。木化壁を形成しない樹木由来のカルスを用いればヘミセルロースやペクチンが有するカルボキシル基を利用して、ミクロフィブリルの凝集が解消され分散液を調製できると考えたからである。赤外分光分析の顕微システムによって成分挙動をモニタリングしながら、化学処理条件を最適化した。得られた試料をヒスコトロンで物理解繊することによって、多糖ネットワークの調製法を確立した。 次に、ミクロフィブリルに堆積したヘミセルロース上でリグニンを重合させるため、ペルオキシダーゼをヘミセルロースに担持させる必要がある。そこで多糖ネットワーク上のヘミセルロースならびにペクチンの局在について調べた。様々な一次抗体を試験したところ、キシログルカンを認識する抗体が最適の分布を示した。以上の成果からペルオキシダーゼが標識された二次抗体を用いてリグニンを重合する基盤が構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度は非セルロース多糖を纏ったセルロースミクロフィブリル分散液の調製法を確立するため、①樹木由来カルスから多糖ネットワークの単離と②抗原抗体反応による非セルロース成分の局在評価について取り組んだ。 ①に関してはスギからから誘導したカルスを試料として用いた。植え継ぎ後,約1ヶ月以内のスギカルスを収集し,化学処理によって多糖成分の精製を行った。赤外分光分析の顕微システムを駆使して構成成分をモニタリングしながらアルカリ処理とブリーチング処理の組み合わせならびに薬剤濃度や反応時間を検討した。その結果、室温での5%KOH処理に続きWise処理3時間後、5%KOH水溶液煮沸処理が最適であった。得られた試料をヒスコトロンで物理解繊することによって、多糖ネットワークが形成されていることを透過型電子顕微鏡観察によって確認した。 ②については免疫染色法を用いて①で調製した多糖ネットワーク上のヘミセルロースならびにペクチンの局在について調べた。一次壁に堆積するキシログルカン、針葉樹二次壁に特徴的なグルコマンナンならびにキシラン、そしてペクチンに対するモノクローナル抗体を作用させた。二次抗体には金コロイド標識したものを用いた。この際、バッファーの種類や抗体の濃度、反応時間ならびに反応温度に関する最適条件を決定した。その結果、キシログルカン抗体がミクロフィブリルに沿って効率よく認識していた。カルスは分化せずに分裂を繰り返すため、一次壁成分であるキシログルカンが他の非セルロース成分よりも堆積していたのは合理的な結果であった。非常に興味深いことにペクチンも一定の割合で局在していることが明らかとなった。部分的に堆積したペクチンが有するカルボニルイオンが分散性に寄与した可能性が示唆された。以上の結果から、次年度に取り組む多糖ネットワーク上にリグニンを重合させて合成する人工細胞壁の基盤が構築できた。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度の成果を基盤として、ミクロフィブリル上でリグニンを位置選択的に重合させて人工細胞壁の創製を目指す。そのために以下の2課題に取り組む。 ①赤外分光法を用いたリグニンの含有量に関する検量モデルの構築と②位置選択的なリグニン重合による人工細胞壁の創製とその構造評価である。 ①に関しては、赤外線吸収スペクトルから人工リグニンを評価する基盤を構築するため、多糖に対するリグニン含有量が既知の試料を用意し、それぞれの赤外線吸収スペクトルを取得する。スペクトルデータならびに化学分析データを相関させることで検量モデルの構築に取り組む。必要があれば多変量解析を行い、ベースライン補正、規格化、二次微分処理といったスペクトル前処理を検討し、信頼度の高いモデルの構築を目指す。また、コニフェリルアルコールから成る二量体といった標品からも赤外線スペクトルを収集し、人工合成した細胞壁中リグニンの化学構造評価も行う。 ②に関しては、29 年度に完成させたスギカルス由来の多糖ネットワーク上において位置選択的なリグニンの重合反応を開始させ、人工細胞壁を創製する。抗原抗体反応における二次抗体にはペルオキシダーゼが付加したものを用いる。まず二次抗体に付加したペルオキシダーゼがリグニン重合能力を有するか確認するため試験管内合成ならびに解析を実施する。その後、グリッド上で多糖ネットワークに標識させた二次抗体に対し、モノリグノールを滴下してリグニン重合を開始し、人工リグニンの合成を試みる。得られた人工細胞壁は電子顕微鏡観察による形態評価に加え、顕微赤外分光分析により化学構造解析を行う。スギカルスだけでなくポプラカルスについても同様の合成および解析を推し進める。また、先に述べた赤外線吸収スペクトルから構築した検量モデルを用いてリグニン含有量や結合様式等について評価する。
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Causes of Carryover |
本年度は樹木から誘導したカルス細胞壁を用いて非セルロース多糖を纏ったセルロースミクロフィブリル分散液調製法の確立に取り組んだ。針葉樹の代表であるスギならびに広葉樹からはポプラのカルスを化学的な処理および物理解繊処理することによって分散性ミクロフィブリル懸濁液の調製に加え多糖ネットワーク構造の構築を目指した。当初はスギとポプラカルスを対象とした実験を並行して取り組んでいたが、スギカルスの最適条件が先行して決定できたため、その後の免疫染色法によるヘミセルロースの局在解析に集中した。以上の理由からポプラカルスに費やす予定であった使用額が次年度に繰り越しとなった。また、インキュベータやオートクレーブといった組織培養に必要な大型装置の運転に大きなトラブルが生じなかったことも要因の一つである。 次年度では、スギカルスで決定した化学処理条件を参考にしてポプラカルスについても同様の実験を試みる。さらに免疫染色法を応用して位置選択的に担持したペルオキシダーゼを用いて人工木化の条件検討に取り組むため、より多くのカルスが必要となる。したがって、カルス培養に必要な培地成分や器具に科研費を使用する予定である。
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Research Products
(11 results)