2017 Fiscal Year Research-status Report
ジョーズの謎:ホホジロザメの子宮内環境の解明と人工哺育技術の開発
Project/Area Number |
17K19334
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Research Institution | Okinawa Churashima Foundation |
Principal Investigator |
佐藤 圭一 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (80721745)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | ホホジロザメ / ネズミザメ / 子宮 / 人工哺育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際的に保護対象種とされるホホジロザメの人工哺育をめざし、子宮内の胎仔を人為的に育成する環境を再現することを目的としている。 当該年度は、ホホジロザメおよび本種の近縁種であるネズミザメの子宮を用いて、子宮内の基礎的情報の収集を主として研究を実施した。本研究課題採択後、8月よりネズミザメ目魚類の子宮サンプルを採集するため、毎月1度の割合で宮城県気仙沼魚市場においてサンプリングを実施した。8月から12月にかけては、ネズミザメの妊娠メス個体が確認されなかったが、1月以降に妊娠中期以降と思われるメス個体および胎仔のサンプル採取を経時的に行うことができた。この期間に採取された胎仔は、すでに卵食を行うステージに達していたため、妊娠初期のサンプル採取は次年度に持ち越しとなった。 当該年度の調査によりネズミザメ類は、1)東北地方沿岸ではおよそ9月以降に交尾、妊娠が開始され、3-4月にかけて出産を行うこと、2)妊娠後期の子宮はホホジロザメのものと類似していること、3)妊娠期間が半年程度と極めて短いこと、4)子宮内の環境や子宮上皮組織についてもホホジロザメと類似することが判明した。組織や子宮内の液体の分析は今後行い、結果が得られ次第人工子宮環境の再現を試み、育成装置の設計につなげる予定である。また、ホホジロザメの繁殖生態を調査するため、ポップアップアーカイバルタグを本種の妊娠個体に装着し、沖縄周辺における生息水深、温度帯を探ることも検討しているが、当該年度はその機会が得られなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現状では、希少種であるホホジロザメに代わるネズミザメに関する知見が集まりつつある。繁殖様式はホホジロザメにきわめて類似していると考えられるため、妊娠後期における人工子宮環境の再現と哺育装置の設計は順調に進むと考えられる。現在、子宮上皮細胞の組織学的所見と、子宮内液の性状分析を実施しており、その結果が得られ次第、人工子宮の作成に着手する。妊娠前期の子宮内環境に関するサンプルが得られていないことから、妊娠前期の子宮内環境に関するデータが不足している。よって、30年度は9-12月にかけてのサンプルを集中的に集め、不足データを補いたい。 また、過去に得られたサンプルを利用し、ホホジロザメの子宮内における酸素供給能に関する分析を行い、その結果が学術誌(Scientific Reports)に掲載された。本結果については、沖縄美ら島財団ホームページ、沖縄美ら海水族館において広く一般にも研究内容が公表されている。 一方、当該年度は沖縄海域におけるホホジロザメの混獲事例が無かったため、本種自体のサンプルあるいはアーカイバルタグの装着実験を行うことはできなかった。タグが装着できない場合でも、ネズミザメの子宮内環境の測定は可能であることから、人工保育装置の開発自体には影響を与えないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針として、ネズミザメをモデルとした繁殖生理学的研究、およびホホジロザメの繁殖生態学的研究、人工哺育装置の開発、異常の3つの課題を中心に研究を行っていく。具体的な研究計画として、1)引き続き個体数が多く得られるネズミザメの子宮サンプルを得るためサンプリングを継続、特に妊娠初期、前期のサンプルを重点的に調査し、妊娠初期の子宮内環境について研究を行う。2)これまで得られたデータをもとに、子宮内環境を得るための液体の開発、人工子宮(内壁)、哺育装置の設計を行い、比較的入手しやすい任意の種を用いて飼育実験を行う。モデルとなる生物種として、ツノザメ類やトラザメ類を想定しているが、よりネズミザメ類に近縁な生物での実験を行うことが理想である。3)ホホジロザメの混獲個体が得られた場合を想定し、ポップアップアーカイバルタグの装着、個体の保定作業、放流作業に関わる機材の準備を行う。ホホジロザメの混獲は、年変動が大きく捕獲数にはばらつきがみられる。よって、混獲が無い場合にはタグ装着実験を行わない場合がありうるため、その場合は生理学的データに基づき子宮内の環境再現を行う。
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Causes of Carryover |
本年度予定したホホジロザメの混獲個体によるポップアップタグ装着実験については、沖縄県内の定置網漁で混獲事例が無かったため、傭船費、クレーン借用費等が未執行となった。ホホジロザメの混獲事例は、年変動が大きく特に冬場の気象条件により左右されるため、予測が極めて困難である。今年度も引き続き、ホホジロザメの混獲個体が得られた場合には、直ちにタグ装着を行う。
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