2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19363
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
栗原 恵美子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (90639585)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | シングルセル / 植物細胞 / 分裂期 / トランスクリプトーム / メタボローム |
Outline of Annual Research Achievements |
分裂期の細胞動態はオルガネラレベルにおいて時空間的に精巧に制御されていることが顕微鏡による観察により明らかになっている。それらに対応して分子レベルでも厳密な制御がなされているはずである。しかしながら、これらの現象に対応する細かな時間軸でのオミックス情報はほとんど不明であった。その理由は、同調実験系を用いたバルク細胞解析ではかなりの割合で他の状態の細胞(現象)を巻き込んでしまい、分裂期を細かく分離することが不可能であるためである。本研究ではこれを解決するために、目的の事象が起こっている細胞のみを顕微鏡下においてマイクロマニュピレータで抽出し、解析することとした。当該年度では分裂期における1細胞トランスクリプトーム解析を行った。まず、核/染色体を可視化したタバコ培養細胞をプロトプラスト化し、染色体の状態を蛍光顕微鏡で観察しながら、前、中、後、終期にあたる1細胞をサンプリングした。1細胞からキットを用いてcDNAを合成し、HiseqによりcDNAをシークエンスした。結果として今まで解析されたことになかった分裂期の各時期における詳細な遺伝子発現の蓄積を明らかにすることができた。また、遺伝子発現データについてのPCA解析(Principal Component Analysis)を行った結果、前期、中期、後期、終期の間において明白な遺伝子発現の変動があることが明らかになった。さらに、分裂期において発現することが明らかになっている既知細胞骨格関連遺伝子においても、前、中、後、終期の細かい時間軸においてどのようなパターンで発現が変動するのかを明らかにした。その結果、既知遺伝子のほとんどは分裂期において恒常的に発現していたが、いくつかの遺伝子は後期、終期特異的に発現していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度研究実施計画である「植物培養細胞を用いた分裂期におけるシングルセルトランスクリプトーム解析」については概ね完了することができた。具体的にはサンプルの取得・画像取得を行い、それを用いてトランスクリプトーム解析、およびデータ解析までを行い、分裂中期の中において遺伝子の発現変化があることを明らかにするとともに、中期に発現する既知遺伝子についても中期の細かい時期における増減があることを明らかにすることができた。また、平成30年度の研究実施計画にある植物培養細胞を用いたメタボローム解析についてもサンプルの取得、解析を始めることができているため、実施計画と相違がなく概ね順調であると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は植物培養細胞を用いて分裂期における1細胞メタボローム解析を行う。サンプリングについては昨年度のトランスクリプトーム解析で行ったサンプリングを参考に、ナノスプレーチップを用いて取得する。メタボローム解析についてはFujiiらにより2015年に報告されたプロトコルに基づき、orbitrap型マススペクトリーを用いて代謝産物の検出を行う。ポジティブモード、ネガティブモード双方により代謝物質を検出し、時期特異的に蓄積する代謝物質蓄積プロファイルを作成する。また、データの解析としてはPCA解析および脂質に焦点を当てた解析などを行う。さらにはメタボローム解析で得たデータをもとにそれに対応する遺伝子の詳細な発現を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成29年度は計画通りシングルセルトランスクリプトーム解析およびそのデータ解析を行い網羅的な解析は完了できたと考えている。しかしながら、トランスクリプトーム解析で得られた網羅データの中から着目すべき細胞板形成に関わる遺伝子についての絞りこみ、発現パターンの詳細な解析をすることができなかった。その理由の1つは、30年度に計画していたメタボローム解析のデータも併せて検討する方が理想的であると考えたためである。よって、それらの詳細な解析については30年度に行う予定とし、先に30年度に行う予定であったメタボローム解析用のサンプリングを行った。そして次年度使用額で着目する細胞板形成関連遺伝子に関する実験を行う予定である。
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