2017 Fiscal Year Research-status Report
利他行動・利己的行動を駆動するゲノム内対立:社会性昆虫の女王分化での検証
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17K19381
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡田 泰和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10638597)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土畑 重人 京都大学, 農学研究科, 助教 (50714995)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 利他行動 / カースト分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
トゲオオハリアリの脳内発現遺伝子について,順位によるカースト分化に伴って発現が変化する遺伝子を約1500個,比較トランスクリプトーム(RNAseq)により特定した.これらの中には,インスリンシグナルなど,代謝や繁殖にかかわる遺伝子や,糖・脂質・アミノ酸代謝経路の遺伝子が数多く見つかった.さらに,ヘキサメリンという昆虫における貯蔵タンパクがワーカーでは多量に発現,合成されていることが明らかになった.この他にも,さまざまな神経化学物質の受容体や合成酵素が,おかれた社会環境に応じて変化していることが明らかになった.さらに,女王からの順位行動を受けた個体では脳内のドーパミンレベル,合成活性が下がることが明らかになり,ワーカーが不妊化する分子生理学的メカニズムとして,脳内ドーパミンの関与が強く示唆される事となった.これらの研究により,利己的行動および利他的行動の分子基盤の詳細な解明が着実にすすんでいる.これらのカースト特異的遺伝子や生理状態をつかめたことは,今後のインプリンティング解析の土台となる. ゲノム解読については,その手法についてさまざまな条件検討を行った.これまで,PacbioとChromiumによる疑似ロングリードを組み合わせたゲノムシーケンスの準備をすすめている.Pacbioこれらの手法には質の良い長鎖DNAが必須であるため,質の高いDNAが得られるよう,様々な核酸抽出・精製方法を試している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較トランスクリプトームについては,予定通りカースト特異的遺伝子の特定をすることができ,今後のインプリンティング解析に道がひらけた.カースト特異的な遺伝子が1500程度の多数見つかったことは,今後のシステム生物学的解析とも相性がよく,順調に進んでいるといえる. ゲノム解析については,Pacbioと新規システムChromiumの併用によるシーケンスを行う予定である.Chromiumは従来の手法より精度・価格の面でまさるが,昆虫への導入例はまだ非常に少ないため条件検討にやや時間を要しており,長鎖で質の良いDNAを得られるよう,条件検討をもう少し続ける必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
Pacbioと新規システムChromiumの併用によるゲノムシーケンスを行う.Chromium法に適した,長鎖で質の良いDNAを得られるよう,SAGE HLSなどの新機器の基礎生物学研究所での共同利用など,核酸抽出・準備の条件検討を着実に続け,良質のゲノム配列が得られるようにする. カースト特異的に発現する遺伝子について,さらに広範な体部位および,発達ステージのRNAサンプルを取得し,追加のRNAseqを行うことで,利己的,利他的遺伝子の部位特異性についての情報を取得する.
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Causes of Carryover |
予定しているゲノム配列解析について,新規手法Chromium法の使用に向けて様々な条件検討を行っている.従って,実際のゲノム配列解析にむけて予算を充分に確保するため,次年度使用額が生じている.
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Research Products
(6 results)