2017 Fiscal Year Research-status Report
光導波路が曲がった動物は何を見ているのか―光軸から外れた視細胞の機能と個体の行動
Project/Area Number |
17K19387
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
山濱 由美 浜松医科大学, 医学部, 教務員 (90242784)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 複眼 / レンズ / 視細胞 / 視覚定位行動 / 光導波路 / 光軸 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物の眼において、光学レンズと光受容器である視細胞は、光導波路であり、光受容効率を上げ、入射角などの情報を損失せず、波長や偏光情報がクロストークしないように、光軸に対して直線的に配置するものと信じられている。ヨーロッパの砂浜に生息するハマトビムシTalitrus saltatorは、太陽や月、風景などの複眼から得た情報による視覚定位行動を行うが、その複眼の個眼構造は光学レンズである円錐晶体とそれに続くラブドームが光軸から大きく外れ、曲がった構造をもつことをこれまでの研究で明らかにしてきた。ハマトビムシが正確な視覚定位行動を行うためには、曲がった光学レンズ構造でも光情報のロスが起こらない仕組みを備えていることが示唆される。本研究課題では、ハマトビムシの曲がった個眼のレンズ構造内で光がどのように進むのかを明らかにするため、複眼の連続切片像から再構築された個眼レンズの三次元立体構築像と各部位の屈折率のデータを用い、物理光学的シミュレーション解析により個眼レンズの近位側から光を入射したときに遠位側にどのように光が拡散するのか(理論的な受光角)を解析するとともに、細胞内記録による個眼の受光角の測定(実測値)を行った。シミュレーション解析の結果、近位側から照射された光は個眼レンズの中心付近に拡散されることが示唆された。また、細胞内記録によって個眼の受光角を測定した結果、ハマトビムシの個眼はかなり広い受光角を持つことが示唆された。このようにハマトビムシ個眼の受光角は、シミュレーション解析によって導き出された理論値と電気生理学的解析による実測値との間に齟齬があることがわかった。ハマトビムシ複眼の個眼間には、反射色素細胞と呼ばれる白い細胞層に囲まれており、顕微分光装置により反射色素細胞層の反射率を測定した結果、非常に高い反射率を示すことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究では、ハマトビムシ複眼の連続切片から再構築した個眼構造の三次元立体構築像を用い、曲がった個眼レンズ内を光がどのように進むのかについての物理光学的シミュレーション解析を行うことができた。個眼構造の物理光学的シミュレーション解析は海外の研究協力者であるフィレンツェ大学のLuca Mercatelli教授らの協力により行った。複眼の連続切片像からの三次元立体構築像の作成は、これまでは一枚ずつ撮影した画像の取り込みや重ね合わせなどの作業を手作業により膨大な労力と時間をかけて行っていたが、本科研費で導入した3D可視化解析システムによって省力化が図れたことで、個眼構造の三次元立体構築モデルのデータ収集が容易にできるようになった。また、細胞内記録による個眼の受光角の電気生理学的解析についても、一般的に甲殻類の仲間は電気生理学的解析が難しいことや現状のデータ収集機器の改善が必要であり、データを順調に収集できるようになるまでに時間がかかることが予想されていたが、マルチ入力データ収集システムの導入によりデータの取得方法が改善され、ハマトビムシ複眼での電気生理学実験手法を確立することができたため、解析が当初の予想よりも格段に進展した。本研究成果の一部は第88回日本動物学会富山大会で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度に引き続き個眼の受光角の電気生理学的解析の例数を増やし、複眼内における個眼の三次元構造の部域差について解析数を増やす。さらに平成29年度の研究成果により、個眼を取り囲む反射色素細胞は高い光反射率を示すことが明らかとなり、この高反射率が個眼の受光角に影響を与えている可能性が示唆された。平成29年度の物理光学的シミュレーション解析は周辺細胞からの反射がおこらないという前提で行ったので、周囲からの反射が起こる前提での個眼の光軸の物理光学的シミュレーション解析をしなおす。もしそれでも理論値と実測値との間に大きな齟齬がある場合、ルシファーイエローなどで視細胞を染色することにより、個眼間での細胞学的なクロストークの可能性について検討する。また、個眼間の反射色素細胞の高い光反射性を示す物質の形態学的特徴および光学的特徴を明らかにし、EDSなどによる成分分析を行う。
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Causes of Carryover |
物品費においては3D可視化解析システムが購入時に当初予算金額よりも大幅に値下がりしたことと、旅費においては海外の研究協力者が別予算で来日したため、海外渡航のための旅費を使用しなかった。また、個眼構造の形態学的解析のために研究補助員の雇用を検討していたが、三次元解析の時間的労力のコストダウンが大幅に計れたことから雇用せず山濱が行った。平成29年度中に個眼の形態学的解析とそのデータに基づいた物理光学的シミュレーション解析、および個眼の電気生理学的解析を優先的に行なうことで、解析方法を確立したので、次年度以降もこれらの解析を更に推進するとともに、行動実験のための予備実験を前倒しで推進する。また、個眼の受光角の理論値と実測値とに齟齬が生じていることについて、その原因が個眼間の反射色素細胞の光学的性質によるものなのか、あるいは個眼のクロストークによるものかを明らかにするため、反射色素細胞の反射を考慮した物理光学的シミュレーション解析を再度行った上で、視細胞で細胞学的なクロストークがないことの検証実験を行うための試薬を購入する。また、高い光反射性を示す反射色素細胞内の構造がどのような成分から構成されているのかについての解析を進めるため、EDS解析などの成分分析を行う。
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