2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19420
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田中 歩 北海道大学, 低温科学研究所, 特任教授 (10197402)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
|
Keywords | 進化 / 酵素 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、酵素の誕生と進化の機構を解明することを目的としている。酵素の進化について次のように考えている。①酵素は本来、基質特異性と反応特異性が広いものである、②この広い特異性のため、新しく獲得された代謝経路の一部はすでに祖先生物に存在していた、③この潜在的代謝経路が新しい機能的な代謝経路の誕生の原動力となった。 これらの考えをもとに、本年度はクロロフィル代謝遺伝子、特にクロロフィル分解に関わるMg-脱離酵素(SGR)の誕生に関して調べた。BLAST検索によって、SGRは光合成生物の中では緑色植物にしか存在しないことが分かり、僅かでも相同性のあるタンパク質は緑色植物以外に見つからなかった。しかし、SGRと相同性のあるタンパク質は、Firmicutes門のBacillus属とChlostridium属に広く分布していることが分かった。これらのタンパク質の分子系統樹では、バクテリアのSGRホモログの中から緑色植物のSGRが分岐していた。これらのことは、緑色植物の共通祖先がSGRをバクテリアから水平移動によって獲得したことを示している。 そこで、バクテリアのSGRホモログの組み換えタンパク質を大腸菌で作製しMg-脱離活性を測定したところ、植物のSGRに系統的に近いSGRホモログが高い活性を持っており、遠いSGRホモログは活性を持ち合わせていなかった。興味深いことに、植物に近いSGRホモログは、植物のSGRよりも高い活性を持っていた。このことは、高いMg-脱離活性を持ったSGRホモログが植物によって利用されたことを意味している。バクテリアにはクロロフィルが存在しないことを考えると、このホモログは本来の活性以外に、Mg-脱離活性を潜在的に持っており、これが新しい酵素の誕生の原動力になったことを示している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは、1.クロロフィル分解経路の獲得と、2.酵素反応の特異性の進化の解明を目的としている。 クロロフィル分解経路の獲得(酵素の獲得)に関しては、SGRに焦点を当てて研究を行った。SGRはクロロフィルを持たないバクテリア(Firmicutes門)に広く分布し、しかもその中のいくつかは緑色植物本来のSGRよりも高いMg-脱離活性を持っていることが分かった。これでクロロフィル分解系の誕生と進化を解明するという本研究の大きな目的の一つに解明の糸口がつかめた。さらに、バクテリアのSGRホモログが高い活性を持っていたことは、淘汰圧を受けなくとも、すなわち生理的な役割を持たなくとも、高い酵素活性を持つことができることを示している。この発見は酵素の進化を考える場合大変重要で、大きな進展と評価できる。一方、バクテリアから緑色植物にSGRが水平移動したことはSGRの分子系統樹から推測されるが、根の位置によっては、逆に緑色植物からバクテリアに水平移動したことになる。根を決めることは一般的に極めて困難なので、他の手法による水平移動の方向の確認が必要である。 本研究のもう一つの大きな課題である酵素の特異性の獲得はDVRとHCARを材料に研究を進める予定であった。しかし、残念ながらこれらの遺伝子を用いた研究は進展がなかった。一方で、SGRに関しては、特異性の獲得に関して興味深い発見をすることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
クロロフィル分解経路の獲得に関しては、バクテリアから緑色植物に水平移動したことを明確に示す必要がある。そのためには、バクテリアやアーキア等全ての生物のSGRホモログを探し、詳細な系統樹を作成することが必要である。分岐年代や、生物の系統樹と比較する、適当なout groupを検索する等、水平移動の方向を決定する。 酵素反応の特異性の進化に関しては、当初DVRとHCARを解析する予定であった。しかし、SGRの研究を進める中、この課題の解決にはDVRやHCARよりも、SGRが相応しいことが分かった。予備的な実験より、SGRホモログは、Mg-脱離反応に関しては基質特異性が広く、反応速度も速いことが分かった。このような酵素が代謝系に組み込まれ、生理的な役割を担うようになると、基質特異性が高まり、様々な制御を受け、その結果反応速度が低下することが予測される。これらの経過を詳細に調べ、特異性の進化を広い視点から解析することが、本研究の目的を実現するに有効である。そのため、この改題に関しては、本年度はDVRやHCARの代わりにSGRを研究材料とする。
|
Research Products
(21 results)