2020 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類の転移因子がもたらした形態形成遺伝子の発現制御システムの探索
Project/Area Number |
17K19424
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
西原 秀典 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10450727)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
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Keywords | 哺乳類 / 発現制御 / 転移因子 / 乳腺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、哺乳類の進化の過程で転写活性化因子の結合サイトを転移因子が拡散増幅したことで哺乳類の形態進化に寄与するエンハンサーを増大させたことを明らかにすることを目的としている。前年度までに転移因子配列上における転写活性化因子の結合サイトの分布解析、その転移因子配列のエピゲノム解析と進化解析、さらに転移因子挿入の比較ゲノム解析の流れを確立し、実際に乳腺細胞においてエンハンサー機能を有する転移因子配列を多数発見することができた(Nishihara, Nuc. Acids Res. 2019)。この際に用いた解析パイプラインを応用し、令和2年度では幹細胞からの分化過程で活性化する転移因子由来のエンハンサー探索を重点的におこなった。特に分化誘導に重要な転写活性化因子がどのような種類の転移因子上に結合しているかを約500ファミリーの転移因子全てに関して網羅的に解析した。その結果、これまでにLTR型レトロトランスポゾンを中心とする様々な種類の転移因子上への結合が発見された。また他の転移因子、例えばLINEに関してもその一部に転写活性化因子の結合が見られることが明らかになった。特に細胞分化の前後で転写活性化タンパク質の結合が上昇するのに伴って、転移因子上への結合数も上昇することを明らかにしている。このことは細胞分化ひいては組織形成の過程でも転移因子がエンハンサーとして機能する可能性を示している。この結果は、細胞分化における哺乳類特異的な発現制御システムも転移因子によって生じた可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は一時的な出勤制限により一部の研究内容が滞った。しかし一方で転移因子に対する結合タンパク質を細胞分化過程で検出でき、転移因子由来のエンハンサーが分化や発生など従来の知見以上に幅広い場面で機能することを具体的に実証できる可能性が得られた。このように転移因子の機能研究に関して新たな道を拓くことに繋げられたことが当初の予想以上に大きく進展した点である。したがって総合的には順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた興味深い知見をより詳細に追究することで、細胞分化における哺乳類特異的な発現制御システムが転移因子によって生じたことを明らかにすることが可能となる。特にエンハンサー機能を持つ転移因子の種間比較を重点的におこなう。これにより次年度かつ本課題の最終目標である哺乳類進化における転移因子がもたらしたゲノム機能の創出とその多様化要因の一般則を明らかにし、論文として発表する予定である。
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Causes of Carryover |
前述の通り2020年度の出勤制限により一部の研究が滞ったことから若干の未使用額が生じた。これは次年度の最終的なデータ収集および成果発表のために使用する予定である。
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