2017 Fiscal Year Research-status Report
真核生物におけるピノサイトーシスメカニズムの保存性と多様性の解明
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17K19434
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
矢吹 彬憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 研究員 (20711104)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30282198)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 浸透栄養 / 真核微生物 / ディプロネマ綱 / ケルコゾア門 / 系統分類 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに確立した浸透栄養性真核微生物の培養株を用いて、分子系統解析と電子顕微鏡による形態観察を実施した。その過程で、飲作用に関連すると考えられる微小な小胞形成を確認し、今後より詳細な観察を進める上での基盤的情報の獲得につながった。観察を行った幾つかの培養株については、系統分類学的な新規性が新たに確認されたため、新属新種、あるいは既知属の新種として記載・報告した(Tashyreva*, Prokopchuk*,Yabuki*, Kaur* et al. 2018 [*co-first authors], Tashyreva et al. 2018)。さらにその過程で、細胞内に新規共生細菌が含まれることも発見し、浸透栄養能を有することと細胞内共生細菌が存在することの細胞機能における関連性、さらに浸透栄養性生物でありながら共生細菌が細胞内に侵入するメカニズムに関する研究の展開に通じる知見を得た。 新たに獲得した試料からも浸透栄養性の培養株の確立を進めた。特にケルコゾア門内では、複数の系統的に離れた種がそれぞれ浸透栄養能を有することが確認された。本知見は、ケルコゾアにでは飲作用メカニズムが比較的保存された形質であることを示すとともに、(比較的)近縁な生物間においてもそのメカニズムに違いがあるのかを検証するための適したモデルとなる可能性がある。今回新たに培養株化されたケルコゾア生物は、これまでに環境クレードのメンバーとして知られていた生物であったことから、ケルコゾアの多様性の理解にも通じる成果であるとともに、浸透栄養性の新規ケルコゾア生物が自然環境中、特に微生物生態系内において担う役割についての知見も今後得られると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度から原著論文としての成果公表ができたことに加え、今後も着実な成果公表が見込まれる基盤的成果が得られたため。具体的には、ディプロネマ綱において飲作用能が普遍的に存在することを明らかにし、また多様性の理解に貢献しただけでなく、ケルコゾア門内においても複数の飲作用能をもった新規系統を同定することに成功したことがあげられる。 確立した培養株の研究的価値はすでに多くの研究者から認識され、新たな研究協力体制確立に向けた打診を受けている。本研究計画で使用している培養方法はすでに他社の研究の中でも活用され始めており、研究成果の波及効果が見え始めている状況にある。平成30年度に注力予定である培養条件の検討、およびより効率的な培養株作成手法の確立は、まさに研究分野全体で期待されている状況にある。 平成29年度の取り組みの中で、本研究計画の目的にも関係する新たな展開(飲作用機能と共生細菌の存在に関する細胞機能の理解)にも波及する成果が得られたことも、当初の計画以上の進展を支持していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
既に確立している培養株を用いた形態観察・系統的所属の解明を続けるとともに、より多くの浸透栄養性真核微生物を効率的に培養株として確立するための手法の(再)確立に注力する。具体的には、添加する有機物の種類と量を検討するほか、淡水試料からの培養株確立を積極的に取り組む。確立した培養株は、これまでと同様に微細構造学的特徴と系統分類学的所属を明らかにする。それらの知見を整理し、平成31年度に予定しているRNA-seq解析に供する培養株の選定に向けた作業を開始する。具体的には、真核微生物間おける小胞形成の場やプロセスの違いを認識を目指した比較観察を行う。 平成29年度の成果から、飲作用能を有する複数の真核微生物において共生細菌の存在が確認されたことから、他の浸透栄養性生物においても共生細菌が存在するのか、存在しやすい傾向が存在するのかを検証する。また共生細菌の系統や有する機能についても可能な限り解析を進める。さらに共生細菌が細胞内に取り込まれた、あるいは侵入したプロセスを理解得るために、浸透栄養性真核微生物をあえて餌となる可能性のあるバクテリアあるいは真核微生物と共培養し、捕食能の有無などの検証も進める。これらの取り組みを通じて、飲茶用能を有する真核微生物の細胞機能全体についての理解の深化を目指す。
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Causes of Carryover |
交付内定以前に別予算で購入した電子顕微鏡消耗品を利用することができたため、その分の費用に余裕が生じた。また、予定していたサンプリングが日程の都合により変更せざる得なくなり、代わりのサンプリングは行ったものの、当初の予定に対し費用面で抑えることができたため未使用額が生じた。 生じた繰越金は、効率的な培養株の確立とその解析をのために雇用した支援パートタイマーを継続して雇用するための費用とする。これにより、昨年度以上に効率の良い展開を目指す。
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