2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19528
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
春山 隆充 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 博士研究員 (10792202)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 / 膜蛋白質 / ナノディスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、すべての生物に保存された基本的な生命現象である蛋白質の膜透過の分子メカニズムの解明を目指し、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用いた解析を行う。原核生物では、モーター蛋白質であるSecA ATPaseが基質蛋白質と相互作用しながら、ATP加水分解エネルギーを利用した反復運動を繰り返すことで、膜透過チャネルであるSecYEG複合体を介した基質の膜透過を駆動する。この反応は、SecYEG、SecA、基質蛋白質、膜構造が存在すればin vitroで再現できる。 蛋白質の膜透過の詳細な解析を行うためには、生体膜と同様な脂質二重膜構造を維持することやSecAとSecYEGが1:1で機能する1ユニット(反応最小ユニット)を構築することが必要である。そこで初めに、脂質二重膜構造を維持できるナノディスク(ND)とSecY-SecAの融合蛋白質を用いて、安定な1ユニットであるSecA-SecYEG-NDを精製した。精製したSecA-SecYEG-NDとSecYEG-NDをHS-AFMで比較したところ、SecA-SecYEG-NDではSecAとSecYEGが1:1で相互作用していることを確認できた。次に、SecYを標識したビオチンを介して、SecA-SecYEG-NDをストレプトアビジン二次元結晶上に結合させた。HS-AFM画像はSecAのドメイン構造を示し、SecAが上向きになるように基板に固定されていることを確認できた。また、このドメイン構造は膜透過反応に伴うSecAの構造変化を可視化するのに十分な分解能を示した。 1ユニットで制御された系(SecA-SecYEG-ND)とそれを基板に固定する系を確立できたので、蛋白質の膜透過における力学的特性などの詳細を明らかにするためにHS-AFMを用いたsingle molecule force spectroscopyへと展開させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノディスク(ND)にSecY-SecAの融合蛋白質を含むSecA-SecYEGを再構成して、安定な1ユニット(SecA-SecYEG-ND)を構築した。高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)の観察結果から、精製したSecA-SecYEG-NDは均一な粒子であり、それは溶液中で基板に固定した状態でも安定であることを示した。また、SecAとSecYEGは1:1で相互作用しており、SecAはSecYEGに強く結合していた。この系を用いて、蛋白質の膜透過反応を再現する準備が整った。 蛋白質の膜透過の力をHS-AFMで測定するには、SecAが上向きで基板上に固定される必要があるので、SecYを標識したビオチンを介してSecA-SecYEG-NDをストレプトアビジン二次元結晶上に固定した。SecA-SecYEG-NDのHS-AFM画像は、SecAが基板表面から離れているにも関わらず、高分解能のSecAのドメイン構造を示した。また、複数のSecA構造が観察され、蛋白質の膜透過反応中に起こるSecAのドメインの動きを追跡できる可能性を示した。 これらの結果は、ナノディスクとSecY-SecAの融合蛋白質を用いて安定な1ユニットを構築し、ビオチン標識を介して二次元結晶上に固定する方法を確立できたことを示している。この方法により、SecAとSecYEGのオリゴマー状態と基板への固定を厳密に制御でき、蛋白質の膜透過反応を再現させたうえで、HS-AFMを用いたsingle molecule force spectroscopyによって蛋白質の膜透過の力を測定することが可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず初めに基質である外膜蛋白質OmpAの前駆体(proOmpA)の調製とビオチン標識を行う。proOmpAは大腸菌内で封入体として発現させ、尿素存在下で変性状態を保ったまま精製する。変性状態のproOmpAはアンフォールド状態の紐状のポリペプチド鎖になっており、膜透過反応の基質となる。 次に、カンチレバーの探針にproOmpAを固定する条件を検討する。カンチレバーをビオチン結合BSAとインキュベートすることで探針を修飾し、ストレプトアビジンを介してビオチン標識した紐状のproOmpAをカンチレバーに固定する。 このカンチレバーと1ユニットで制御された系(SecA-SecYEG-ND)を用いて、蛋白質の膜透過における力学的特性を高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)で測定する。カンチレバーに固定された基質であるproOmpAがSecA-SecYEG-NDのSecAと相互作用もしくはSecYに膜透過されることで張力がかかってカンチレバーがたわむ。このカンチレバーのたわみをフォトダイオードで検出し、探針・試料間距離とカンチレバーに働く力(たわみ量)との関係をプロットすることでフォースカーブを得ることができる。さらにヌクレオチド条件や濃度を変えた測定あるいはproOmpA変異体を用いた測定を行い、データを収集する。 これにより、蛋白質の膜透過に実際にどの程度の力が必要であるのか、また基質の配列依存性があるのかなど、これまで不明だった蛋白質の膜透過の詳細を明らかにできる。
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Causes of Carryover |
研究を進めていくうえで必要に応じて研究費を執行しており、当初予定していた液中用窒化シリコンカンチレバーやその修飾に必要な試薬などを今年度は支出しなかったので、見込み額と執行額が異なった。研究計画に変更はなく、また、次年度は高速原子間力顕微鏡による測定回数も増えるので、液中用窒化シリコンカンチレバーやその修飾に必要な試薬などの購入および出張費に使用する。
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