2017 Fiscal Year Research-status Report
スーパーコンピューターによる「分子レバレッジ」仮説の検証
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17K19669
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
後藤 信哉 東海大学, 医学部, 教授 (50225653)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 血小板細胞 / 膜糖蛋白 / GPIIb/IIIa / 分子動力学 / Talin / 心筋梗塞 / 血小板凝集 / インテグリン |
Outline of Annual Research Achievements |
生命体は、わずかなエネルギーにより、外界の変化に速やかに対応して動的平衡を維持するメカニズムとして、細胞内環境のわずかな変化により細胞外ドメインの大きな構造変化を起こす蛋白質として血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaに注目した。GPIIb/IIIaは細胞膜貫通蛋白である。細胞膜貫通部位を支点、細胞内ドメインを力点、細胞外ドメインを作用点とする分子レバレッジにより、細胞内ドメインのわずかな構造変化が細胞外ドメインの大きな構造変化を惹起するモデルを考案した。 GPIIb/IIIaの細胞膜貫通ドメインを実際に細胞膜に配置し、細胞外ドメイン、細胞内ドメインを配置した。細胞外ドメインの初期構造には過去のX線構造解析の結果を用いた。細胞内ドメイン、膜貫通ドメインの初期構造としてはNMR解析結果を用いた。 活性化を惹起する細胞内ドメインの構造変化としてリン酸化Talinとの結合を過程した。巨大分子であるTalinのうち、GPIIb/IIIaの細胞内ドメインと結合するF3ドメインを用いる。蛋白質の静的構造の指標となるX線構造解析と異なり、活性化構造と非活性化構造の間を動的に遷移するGPIIb/IIIaの3次元構造を動的に分子動力学計算するための基盤モデルの作成に成功した。 活性型構造にてフィブリノーゲンのドデカペプチドと結合したGPIIb/IIIaの動的構造を2x10-15秒ごとに解くことにより、50ピコ秒程度までの計算により非活性型構造に遷移することを本年度の計算にて確認した。「分子レバレッジ」の存在を確認するまでには至っていないが、GPIIb/IIIa分子が動的に高次構造変化すること、その時の細胞外ドメインの構造変化に比較すると細胞内ドメインの構造変化は小さいことは確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子レバレッジ仮説の検証のために、細胞膜を支点、細胞外ドメインを作用点、細胞内ドメインを力点としてGPIIb/IIIa分子を「てこ」の配置にする必要がある。過去に報告されたX線構造解析、NNR解析などの結果を参考にして基盤モデルを作成した。基盤モデルを構成する原子を初期配置し、CHARMM力場を用いた分子動力学計算を可能とした。 細胞膜としては脂質二重膜のモデルを用いた。脂質二重膜は硬いので、膜に厚みがあっても支点として作用できる。細胞内ドメインは細胞外ドメインに比較して小さいので力点として作用し得ることを確認した。 動的3次元構造予測計算のための力場としてChemistry at Harvard Macromolecular Mechanics(CHARMM)-36 を用いた。CHARMM-36ではシグナル伝達を担うリン酸化アミノ酸の力場も含まれている。計算にはNAnoscale Molecular Dynamics (NAMD)を用いた。学内に整備したXeon phiおよび学外の高性能スパコンを用いて最大 4,096 のCPU の大規模並列計算にてNAMDの最適化にも成功した。 計算のための基盤モデルの作成に成功したこと、学内のXeon Phiの整備に成功したこと、実際にXeon Phiを用いてGPIIb/IIIaの動的3次元構造遷移の計算に成功したことから、本研究は概ね順調に進行していると判断した。分子レバレッジは仮説であるが、仮説を完全に否定できない場合に、本研究の終末をどの時点に設定するかの判断は難しいことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度学内コンピューターとしてXeon phiを整備した。Xeon phiには46GBのメインメモリーの他に32GBのMCDRAMという高速メモリーが搭載されている。本研究の大規模計算に用いる大きなサイズのデータを用いる場合, メモリーからCPUへのデータの転送が高速計算施行のためのボトルネックとなり、CPUの計算力を十分に発揮できない. 学内に整備したXeon phiにて十分な計算効率を発揮するために、メインメモリーの使用を避け、高速なメモリーであるMCDRAMからのCPUへのデータ転送を効率的に利用する必要がある。脂質二重膜を含むGPIIb/IIIaの構造は大きすぎてXeon PhiのMCDRAMに入りきらない。分子レバレッジ仮説の証明のためには脂質二重膜を含むGPIIb/IIIaの細胞内外ドメインの一括計算が直感的ではあるが、細胞膜貫通ドメインの構造揺らぎは小さいので、細胞外ドメインと細胞内ドメインを分割計算することも可能である。Xeon Phiを用いて計算するときには、GPIIb/IIIaの構造計算を各々がMCDRAMに入る4つのプロセスに分割し、各々別個に計算する方法を工夫した。本法により、各プロセスがMCDRAMに収まるので計算は効率化可能である。各ノードで64コアをフルに活用することにより計算の効率化を図る。さらに本研究を加速化させる
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Causes of Carryover |
計算結果を保存するハードディスクなどの消耗品の価格が技術の進歩とともに安価になったため差額が生じた。2018年度には計算が本格化するのでさらに消耗品が必要となるのでそこで使用する。
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Research Products
(3 results)