2019 Fiscal Year Research-status Report
可溶化メラニンによる抗アレルギーおよびがん抑制の実証とメラニン受容体の探索
Project/Area Number |
17K19935
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
川本 善之 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (10410664)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | メラニン / アレルギー / がん / 癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、独自に作製した可溶化・可溶性メラニンを用いて、抗アレルギーおよびがん抑制作用の実証とメカニズムの解明を目的として実施した。本年度、食物アレルギーモデルを用い、メラニンの経口投与でアレルギーの感作を抑制することができるか、あるいはアレルゲン感作後のアレルギー反応を抑制することができるかどうかを検討した。食物アレルゲンとしてオボアルブミンを用い、メラニンを1.抗原感作期間のみ 2.抗原負荷期間のみ 3.抗原感作および負荷期間 に継続して投与した群を作成し、比較した。その結果、メラニンの経口投与は抗原特異的IgEの産生を抑制することはなかったが、アレルゲン投与前に前処置として服用させると、アナフィラキシー反応の抑制が見られた。今回の検討で、水溶解メラニンは抗原負荷時における免疫応答を負に制御し、食物アレルギーの重症化抑制に寄与する可能性が示唆された。 一方、がん細胞のスフェロイド形成による3次元培養系において、メラニンはスフェロイド体積の増加を有意に抑制したが、系からメラニンを除去すると再び増殖が開始された。メラニンは細胞周期のG1期に働きかけ、細胞死を引き起こさずに細胞増殖を抑制することを見出していたが、3次元培養系を用いた本結果でもあらためて示された。そこで細胞周期制御関連分子の発現について調べた結果、サイクリンA, B, Hの発現量に影響は見られず、サイクリンD, Eの発現低下が処理濃度依存的に引き起こされていた。このことから、G1期における細胞周期停止はサイクリンD,Eの発現低下に拠る可能性が示唆された。なお、正常細胞に対しても細胞毒性は極めて低いレベルで抑えられていた。以上の結果から、水溶解したメラニンはがん細胞を積極的に死滅させることはないが、正常細胞に対する悪影響を回避しつつ、増殖の活発ながん細胞を制御(静御)しうる働きを持つ可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今回、食物アレルギーモデルを用いた新たな検討で、メラニンの服用でアレルギー症状の抑制がみられた他、そのメカニズムとして抗原特異的IgEの産生抑制ではなく、抗原感作時における作用である可能性が見出された。がんの抑制に関しては新たにG1期に関わる細胞周期制御分子の発現低下を見出すことができ、メカニズムの解明に前進が見られた。一方、がんの転移モデルマウスを用いた転移抑制の有無については更なる検討が必要であることと、合成メラニンの標的分子の特定には至っておらず、引き続き検討を続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
メラニンと最初に相互作用する分子の特定は、抗アレルギー作用のみならずがん細胞の増殖抑制作用のメカニズムの本質的な解明に重要である。標的分子の候補にはタンパク質の他、糖鎖、脂質である可能性もあり、様々な解析手段、方法を用いて進めていく必要がある。 アレルギーに対しては、少なくともマスト細胞が関わるⅠ型アレルギーに対しては一定の抑制効果が見出されたが、免疫複合体やT細胞が関わる他のタイプのアレルギーに対する抑制効果の有無については不明であり、調べていく必要がある。がん細胞増殖抑制メカニズムについても、現時点では解析対象が細胞周期関連分子の一部に留まっているため、細胞周期制御パスウェイを俯瞰しながら、作用点の絞り込みをして行きたい。 さらに、アレルギー、がんの他、自己免疫疾患や炎症性疾患モデルなど多角的にアプローチし、有効性のある範囲の検討も引き続き実施して行きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本課題の抗アレルギーおよびがん抑制の実証に関する研究は概ね予定通り遂行できたが、メラニン受容体の特定に関し、抗体の作製に予想以上に時間を要し、加えてLC-MS機器のトラブルと修理が重なり、当初計画が遅延した。現在抗体については精製段階にあり、LC-MSシステムも稼働しており、同定作業を行うことができるが、バリデーションを実施する必要性を考慮し、延長申請することとした。機器類の購入はなく、主に生化学的試薬類、細胞培養関連試薬等の消耗品、および人件費に使用する予定である。
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