2019 Fiscal Year Research-status Report
運動トレーニング及び肥満への適応は筋幹細胞にメモリーされるか?
Project/Area Number |
17K19940
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
檜垣 靖樹 福岡大学, スポーツ科学部, 教授 (10228702)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
兼岡 秀俊 福岡大学, 医学部, 教授 (20161169)
北嶋 康雄 熊本大学, 発生医学研究所, 助教 (70734416)
安野 哲彦 福岡大学, 医学部, 講師 (80551994)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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Keywords | サテライト細胞 / 一酸化窒素合成酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)の細胞内分布の違いが、骨格筋量の調節に係っていることが知られている。すなわち、骨格筋細胞におけるnNOSの局在は、正常筋細胞では筋の細胞膜および核に局在し、一方で筋損傷時には細胞質に移動する。本年度は、昨年度の実験結果に基づき、薬理的に損傷を起こした骨格筋から筋サテライト細胞を収集し、損傷のメモリーが筋サテライト細胞に受け継がれ、その背景にnNOSのプロモーター領域のDNAメチル化が作用する、という仮説を検証した。 実験方法は、これまで通り、9週齢の雄性C57BL/6Jマウスの前脛骨筋に、10μmol/Lのカルジオトキシン(CTX)を50μL、腓腹筋に100μL投与した。対照筋には同量の生理食塩水を投与した(コントロール群)。両群の骨格筋を採取し、プレプレーティング法により筋サテライト細胞を単離した後、5日間培養した。筋サテライト細胞のnNOSの遺伝子発現は、リアルタイムPCR法により評価し、nNOSのプロモーター領域のDNAメチル化は、パイロシークエンス法により定量化した。 その結果、筋サテライト細胞におけるnNOS遺伝子発現量は、骨格筋と比べ低値を示した (p < 0.05)。一方、筋サテライト細胞におけるnNOS DNAメチル化レベルは、変化を認めなかった。骨格筋におけるnNOS遺伝子発現量は、CTX投与により著減したが(p < 0.05)、筋サテライト細胞において変化は見られなかった。一方、CTX投与筋から採取したサテライト細胞のnNOSのDNAメチル化レベルは、有意に増加した (p < 0.05)。 以上より、筋損傷メモリーとして、サテライト細胞におけるnNOSのDNAメチル化の存在が明らかとなったが、遺伝子発現とメチル化の関係については、明らかにすることができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の報告では、損傷筋から収集したサテライト細胞の予備的なデータを得ていたが、培養方法の軽微な修正や分析技術の向上により、一酸化窒素合成酵素の遺伝子発現レベルとメチル化解析に着手することができ、筋サテライト細胞のnNOS遺伝子プロモータ―領域のメチル化の定量化に成功した。 これまでの成果より、骨格筋細胞とそれより単離したサテライト細胞を培養した筋幹細胞において、両者のnNOS発現レベルとDNAメチル化の定量化を行うことができ、さらに、単離する前の骨格筋状態として、損傷モデルのデータも得た。 しかしながら、単離したサテライト細胞より得られるメチル化レベルは、生体内骨格筋より偏差が大きく、このバラツキが実験手技によるものか、サテライト細胞の実際のデータか、さらに検討を進める必要性を感じており、追加評価を行う計画を想定して慎重にデータ解析を実施していることから、本年度での最終報告に至らなかった。 また、肥満モデルを用いた実験においては、骨格筋のnNOSにおけるDNAメチル化は、高脂肪食摂取に伴う時間経緯により差を認めたが、肥満マウスより採取した骨格筋サテライト細胞の解析には更なる実験条件設定が必要である。 以上のことから、予定していた実験計画を次年度に延長し、実施する予定であることから、「やや遅れいている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、大学内入構禁止のため、確認検証実験がストップしている。入構禁止解除後、速やかに、検証実験を進める予定である。すなわち、損傷筋のnNOSにおけるDNAメチル化レベルと損傷筋から採取したサテライト細胞を培養した筋幹細胞におけるメチル化レベルの追実験を行う。そして、遺伝子発現レベルとの関連性について再検証する。サテライト細胞より得られたDNAメチル化レベルの再現性のチェックをあわせて行う予定である。 骨格筋量の調節に一役を担うnNOSの分子メカニズムとして、遺伝子発現レベルとプロモータ領域のDNAメチル化との関連性を明らかにし、nNOSの活性化を惹起する上流の分子としてAktのリン酸化などもあわせて検討をする予定である。 筋損傷モデルについてはこれまでの研究により、予定通り進むものと考えている。一方、肥満モデルについては、生体内骨格筋でのnNOS遺伝子プロモータ領域のDNAメチル化とそれより採取したサテライト細胞を培養した筋幹細胞を比較するための実験条件設定が必須である。昨年度の実験により、脂肪蓄積早期においてnNOSにおけるDNAメチル化が観察されている。この点は、非常に興味深いデータであり、時間経過(肥満の程度)とともにnNOS発現とDNAメチル化が変化することを示唆するデータである可能性が考えられる。
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Causes of Carryover |
次年度に研究費の一部を持ち越した理由は、2点である。第1点は、単離したサテライト細胞より得られるメチル化レベルについて、骨格筋細胞実験データと比較した場合、サンプル間の偏差が大きく、このバラツキが実験手技によるものか、サテライト細胞特有のデータか、さらに検討を進める必要があり、追加評価を行う計画を想定して慎重にデータ解析を実施している。 2点目として、肥満モデルを用いた実験においては、骨格筋のnNOSにおけるDNAメチル化は、高脂肪食摂取に伴う時間経緯により差を認めたが、肥満マウスより採取した骨格筋サテライト細胞の解析には更なる実験条件設定が必要である。 以上のことから、予定していた実験計画を次年度に延長し、再検証も含めて行うことから、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(1 results)