2017 Fiscal Year Research-status Report
放射線によるがん関連線維芽細胞の形成と放射線発がんへの関与
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17K19944
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Research Institution | National Institute of Public Health |
Principal Investigator |
志村 勉 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (40463799)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | 放射線発がん / ミトコンドリア / 微小環境 / ROS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、放射線発がんにおけるがん微小環境の役割について、がん細胞とがんの周辺の細胞の相互作用で、特に、ミトコンドリアの酸化ストレスに着目して、解析を進めている。また、放射線高感受性のヒト遺伝子欠損細胞を用いて、ミトコンドリア損傷を指標に、低線量放射線影響の高感度検出に取り組んだ。 本年度は、ヒト胎児肺由来正常二倍体 線維芽細胞 MRC-5、TIG-3やヒトATM遺伝子欠損細胞(AT5VIBA)を用いて、細胞レベルでの解析を進めた。放射線は核DNAと同様に、ミトコンドリアに損傷を与えることから、細胞核に加えて、ミトコンドリアは放射線の主な標的器官であることを明らかにした。放射線照射後のミトコンドリアのエネルギー生産の過程で副産物として発生する活性酸素は、発生源のミトコンドリアを攻撃し、酸化損傷を与えることを明らかにした。ミトコンドリア損傷は、急性照射、慢性照射、分割照射など照射条件と細胞の分化度、放射線感受性別に、線量依存的に誘導されることを明らかにした。DNA損傷のセンサーであるATMは、放射線による核DNA損傷のシグナルをミトコンドリアに伝え、放射線応答における核とミトコンドリア間のクロストークに重要な働きを持つことを明らかにした。 ミトコンドリアの機能不全は、発がんに深く関与していることが知られている。ミトコンドリア損傷の解析は、単に放射線の被ばく線量の把握だけでなく、放射線影響の高感度検出という点においても重要であり、今後も継続した解析が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに、初年度は細胞での解析を進め、放射線によるミトコンドリア損傷を検出する実験系を確立した。また、長期低線量放射線照射後に、平べったい形態を持つ大きな細胞が出現することを明らかにした。この細胞は、がん組織に含まれる、がん関連線維芽細胞と形態がにており、今後さらなる正常解析が必要であることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度までの培養細胞の解析で得られた知見から、ミトコンドリア損傷が、腫瘍微小環境を構成するがん関連線維芽細胞(筋線維芽細胞:CAF)の形成に関与するかどうかを検討する。がん細胞とCAFの相互作用について、CAFが放出する液性因子、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)や線維芽細胞増殖因子(FGF)が放射線照射による増加するかどうかを検討する。生体内で、放射線がCAFの形成を促進し、がんになりやすい環境を誘導するかどうかを、放射線照射後、正常二倍体 線維芽細胞に放射線を1月間照射した後、CAFの指標として用いられる平滑筋用のアクチンalpha-smooth muscle actin (alpha-SMA)やplatelet derived growth factor receptor(PDGFR)の発現をフローサイトメーター、ウエスタンブロッティングで定量する。CAFによる生体内のがん細胞の増殖促進効果を観察するため、ヒト子宮頚部がん細胞株HeLaと正常繊維芽細胞を混合し、ヌードマウス脊部皮下に移植する。コントロール(がん細胞のみ)、がん細胞+非照射繊維芽細胞、がん細胞+放射線照射繊維芽細胞を同一のマウスに移植し、移植後、31日間腫瘍体積を測定する。腫瘍の増殖曲線から、CAFによるがん細胞の増殖能の亢進を評価する。腫瘍を摘出し、組織切片を作成する。CAFの指標の発現とHE染色により腫瘍組織の形態を観察する。抗酸化剤N-アセチルシステインと放射線の併用によりCAFの形成が抑制されるかどうかを検討し、抗酸化剤による放射線防護効果を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度は、当初予定していた人件費が必要なくなったため、次年度使用額が生じた。次年度に、人件費として使用する予定である。
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Research Products
(11 results)