2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K19962
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊田 明弘 東京大学, 情報基盤センター, 特任准教授 (80742121)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 固有値 / 近似計算 / 低ランク / アルゴリズム / 並列計算 / H行列 |
Outline of Annual Research Achievements |
科学技術計算に必要な大規模行列の全固有値を効率的に計算することを目的とし、低ランク行列表現に基づく固有値計算手法および同手法並列化アルゴリズムの研究開発を進めている。 2018年度は、まず前年度に開発した手法(H行列をハウスホルダー変換により三重対角行列化する手法)の並列化に取り組んだ。H行列は構造が複雑で、特に分散メモリシステム上で効率的に動作する並列アルゴリズムの構築・実装が困難であった。そこで、演算の利便性と計算・通信パターンの構築のし易さを目指して別途開発を進めていた新しい低ランク近似手法である格子H行列に対して、三重対角行列化を行う並列計算コードを実装した。逐次H行列コードでは行列サイズ5万元の計算が限界であったが、並列版の格子H行列コードにより、数十万元サイズの計算が可能になった。近似計算による固有値の誤差を調べたところ、行列サイズが大きくなるにつれて誤差が加速度的に増加することが分かった。ハウスホルダー変換の途中で密部分行列の再圧縮がうまくいかないことがあり、その影響が行列サイズの増大により顕在化することが判明した。 ハウスホルダー変換より対象行列を三重対角行列化する方針が暗礁に乗り上げた場合に備えて、QR法により固有値計算を行う方針についても検討を重ねている。格子H行列の特殊な場合であるBLR行列に対して、近似QR分解を行うアルゴリズムを開発し、計算コードとして実装した。数値実験を行い、開発手法の計算精度および計算効率について検証したところ、BLR行列の表現力(密行列をBLR行列で近似した場合に得られる精度)に応じて近似QR分解の精度が決まり、計算コストはO(N^2)程度であることが確かめられた。この計算コストは、密行列の場合のO(N^3)に比べて小さい。さらに、格子H行列を用いれば、計算コストはO(N (logN)^2)に低減されることが理論的に予測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究により、低ランク近似行列手法としては、本研究の一環として開発された格子H行列法が、分散メモリ並列計算システム上での固有値計算を行うに際して有望な手法であることが分かった。固有値計算手法としては、QR法およびハウスホルダー変換による三重対角行列化手法の二つの手法について研究を行っている。これらの手法の内、後者については大規模化に伴い精度に関する課題が顕在化することが判明した。前者については、格子H行列法を簡単化したBLR行列に対して、固有値計算の前段階であるQR分解しか行っていないが、三重対角行列化手法で計算精度が問題になる規模で計算を行っても、想定内の誤差で計算することができることが確かめられた。一連の研究について、研究会3回および招待講演1回で研究成果の発表を行い、査読付き国際会議投稿した論文2本が採択された。
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Strategy for Future Research Activity |
分散メモリ計算システム上で、格子H行列に対してQR法を用いて固有値計算を行うことを当面の主目標として掲げる。現在までに達成できていることは、格子H行列法を簡単化したBLR行列に対して、固有値計算の前段階であるQR分解を、逐次計算で行うことである。目標までの方策として、まずは現状のBLR行列QR分解の共有メモリ並列化アルゴリズムを開発し、その後、分散メモリ並列化アルゴリズムの開発を行う。分散メモリシステムを用い、大規模行列についてBLR行列QR分解の精度を確かめる。計算精度が許容範囲内であることを確かめられれば、QR法を実装し固有値計算に取り掛かる。ここまでの検証をBLR行列で行い、問題点を全て解決してから格子H行列に移行する方針である。
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Causes of Carryover |
スーパーコンピュータを用いた大規模並列計算を行う予定で、計算機使用料を予算として計上していたが、諸事情(計算時間が当初見込みより少なくすむ、計算機の混雑など)により使用料が見込みより大幅に少なかった。また、投稿を予定していた国際会議に論文執筆が間に合わず、関連する諸経費(旅費など)を執行できなかった。これらの事由により、次年度使用額が生じた。 今年度に大規模計算を実施する予定のため、計算機使用料を当初予算に上乗せする。また、今年度に行われる国際会議に論文を投稿し、繰り越し額を消費する。
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