2017 Fiscal Year Research-status Report
An Exploration of Primary Odors That Enables Reproduction of Arbitrary Odors
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17K19964
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
石田 寛 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80293041)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松倉 悠 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60808757)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | バーチャルリアリティ / 感性情報学 / 嗅覚 / 匂いセンサ / ガスセンサ / 嗅覚ディスプレイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、映画やテレビに出てくる匂いを自在に再現できる装置の実現を目指す。近年、30種類程度の多様な化学物質を混ぜると、どのような物質を混ぜても似たような匂いになることが発見された。多様な色の光を混ぜるとどれも白く見えるのと類似していることから、この匂いに「olfactory white」という名前が付けられている。本研究ではolfactory whiteを作る化学物質の組合せを手がかりに、任意の匂いの合成を可能にする原臭を探す。 今年度は、olfactory whiteを構成する化学物質を調合し、その匂いを電子嗅覚システムで確認するシステムを構築した。このolfactory whiteを構成する化学物質は原臭ではないが、その混合比を変えれば、原臭以外の多様な匂いが再現できると期待される。しかし、調合比を変えた数百通りの匂いを人間が全て嗅いで確認するのは困難であるため、電子嗅覚システムを用いて匂いの再現度を評価し、再現度の高い調合比を自動探索する手法を採用する。人間は、多数の嗅細胞の応答パターンを識別して、嗅いだ匂いが何であるか知覚する。電子嗅覚システムではこの仕組みを模倣し、応答特性が異なる複数のガスセンサを用い、その応答パターンを識別して匂いをセンシングする。匂い調合装置で生成した香料蒸気を導入してそれに対するセンサの応答パターンを測定し、その結果に応じて香気成分の混合比を自動的に変更可能なシステムを構築した。 また、調合した匂いを被験者に嗅いでもらい、匂いの再現度を評価する装置の作製も行った。複数の匂いを切り替えて被験者に提示できる装置を作製し、液晶ディスプレイの画面に指示を表示して、容易に官能検査を行うことができるようにした。揮発性の低い化学物質を用いた場合には、十分な強さの匂いを被験者に提示できないことがあるので、匂いを濃縮して被験者に提示する装置の開発も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究実施計画を概ね予定通りに遂行し、次年度に行う研究の準備を整えることができた。まず、様々な匂いを再現する実験を次年度以降に行うために、化学物質を揮発させた蒸気を任意の割合で調合し、その匂いを電子嗅覚センシングシステムで確認するシステムを用意した。応答特性が少しずつ異なる32個のガスセンサを備えた電子嗅覚システムを使い、人工的に調合した匂いが映画やテレビで再現したい匂いにできるだけ近づくように、調合比を自動的に変更することが可能な構成となっている。現状では、一度に装置にセットすることができる化学物質の数が12種類までとなっているが、30種程度までセットできるように装置を拡張することも容易である。 また、調合した匂いを被験者に嗅いでもらい、匂いの再現度を評価する装置の開発も行った。被験者の顔の位置や向きを検出し、液晶モニタ画面に映し出された物体の匂いを嗅ごうと被験者が物体の画像に顔を近づけた際に、その画像の位置から匂いを提示することができる。提示する匂いを切り替え、モニタ画面の右側に被験者が顔を近づけた際に、左側に顔を近づけた場合とは異なる匂いを提示することもできる。モニタ画面にリンゴ、オレンジ、ブドウなど複数の画像を表示しておき、被験者にその匂いを順に嗅いでもらい、匂いの再現度を評価してもらう実験を行うことが可能になった。揮発性の低い化学物質から作った匂いを濃縮して被験者に提示する装置についても、10倍程度に濃縮した匂いを提示することができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
映画やテレビ番組から選定した20種類程度の代表的な匂いに対し、olfactory whiteを構成する化学物質の成分の混合比を変え、匂いの再現を試みる。まず、電子嗅覚システムのセンサ応答パターンを計測し、再現したい匂いと同じ応答パターンが得られるように香気成分の混合比を自動調整する。この結果を人間が嗅ぎ、混合比を更に微調整して、匂いが再現できる混合比を素早く探索できるようにする。センサ応答パターンが同じでも匂いが大きく異なるようであれば、結果が改善されるように、異なる種類のガスセンサを電子嗅覚システムに加える。 代表的な匂いを再現する調合比が明らかになったら、実際に匂いが再現できているかどうか、多数の被験者を募って官能検査を行い、確認する。その際には、個人情報の保護に関する法律などの関連法令や、国立大学法人東京農工大学ヒトを対象とする研究に関する倫理委員会要項に従い、東京農工大学研究倫理委員会の承認を得て適切に研究を実施する。 また、olfactory whiteを構成する化学物質の混合比を変えても再現できない匂いに関しては、その匂いを構成する成分を調べ、どのような化合物を追加すれば匂いの再現が可能であるか探る。例えば、人間の鼻はカビ臭に対して敏感であり、カビ臭を呈する物質に対して選択的に反応する嗅細胞を有している可能性がある。このような物質の匂いは、olfactory whiteを構成する化学物質の調合比を変えても、再現できない。また、原臭自体も、他の匂いを混合して作り出すことはできない。そこで、olfactory whiteを構成する化学物質から作り出すことのできない匂いの例を探し出し、原臭を探索する。
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Causes of Carryover |
調合した匂いを被験者に嗅いでもらい、匂いの再現度を評価するために、複数の匂いを切り替えて被験者に提示する装置の開発を行った。この装置を応用したシステムに関する研究成果を平成30年度にヨーロッパで開催される国際会議で発表する。またその際に、ヨーロッパで電子嗅覚システムの研究を精力的に行なっている研究グループを訪問し、国際共同研究の実施に向けた研究打合せを行う予定である。そのため、平成29年度に使用予定であった金額の一部を平成30年度における旅費に充当し、研究代表者と研究分担者が国際会議発表を行い、ヨーロッパの研究グループと国際共同研究実施に向けた研究打合せを行うために用いる。
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