2017 Fiscal Year Research-status Report
非直交変換に基づく高速・高精度・安定な行列計算アルゴリズムの設計手法の確立
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17K19966
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
山本 有作 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20362288)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 悠輔 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 特別研究員 (60709765)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 行列計算 / 非直交変換 / 固有値計算 / 連立1次方程式解法 / COCG法 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,時間依存固有値問題の解法とシフト線型方程式の解法の2つのテーマについて,非直交変換を用いたアルゴリズムの開発を行った。
(1) 時間依存固有値問題とは,時間に依存する行列A(t)の固有値・固有ベクトルをtの関数として求める問題である。本研究では,A(t)が実対称の場合を扱う。自明な解法として,tごとに固有値問題を解き直す方法があるが,1ステップ前のtの値を利用することで,計算量をより少なくできる解法が望まれる。本研究では,荻田・相島の固有ベクトル反復改良法に基づくアルゴリズムを提案した。荻田・相島法は,固有ベクトルを並べた行列X(t)を,途中で非直交行列となることも許しつつ,X^T(t)X(t)が単位行列かつX^T(t)A(t)X(t)が対角行列に近づくように更新してゆく手法である。この方法では,固有値が近接あるいは重複する場合に収束性が悪化するが,本研究では,部分対角化による前処理を導入することでこの問題を解決し,効率的なアルゴリズムを構成した。
(2) シフト線型方程式とは,(A+σI)x=bの形の方程式で,特にAが実対称,σが純虚数の場合は,シュレーディンガー方程式の時間発展の計算など,多くの応用がある。本問題の解法としては,COCG法が広く使われている。COCG法はCG法(共役勾配法)を複素対称行列に拡張した手法であるが,内積の代わりに疑似内積を使うため,生成されるクリロフ部分空間の基底が直交性を持たず,CG法の持つ無破綻性,誤差のAノルムの単調減少性などの優れた特徴を一般には持たない。にもかかわらず,シフト方程式に対するCOCG法は多くの場合,比較的安定に収束する。本研究ではこの理由について理論的な検討を行った。その結果,ある種のシフト方程式については,無破綻性と残差の準単調性が成り立つことを示し,収束の安定性の理由をある程度解明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
非直交変換に基づきながらも安定性を実現しているアルゴリズムを取り上げ,その理論的解析を行うという目標に向かい,研究がほぼ順調に進展している。当初の予定では,固有値問題と直交化を取り上げるはずであったが,シフト方程式に対するCOCG法という応用上重要な例が見つかったため,直交化に代えてそちらの解析を先に行った。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,既存アルゴリズムの解析を行い,その安定性の理由を探るとともに,安定性を実現しているメカニズムを一般的な形で理解し,新たなアルゴリズムの開発に役立てる。
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Causes of Carryover |
2017年9月に国際学会での発表を予定していたが,より研究を進めた段階で発表したほうがよいと判断したため,次年度使用額が生じた。2018年度の国際学会のための旅費として使用する。
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